AIは音楽を作るだけでなく、届け方そのものを変えようとしている。

Sonosが9月2日に発表した次世代オーディオOS「Sonos 27」には、「カスタムエージェント」と呼ばれる機能が含まれている。ユーザーが自分だけのAIアシスタントを作れる仕組みで、使うAIモデル(Anthropic、OpenAI、Gemini、Grokから選べる)、声、ペルソナをそれぞれ設定できる。

何が起きたか

Sonos CEOのトム・コンラッドはVergeのポッドキャスト「Decoder」で、この機能の使い方をこう説明した。

「映画『ハイ・フィデリティ』でジョン・キューザックが演じた、こだわりの強いレコード屋の店員みたいなキャラクターをSonos内に作れる。OpenAIの推論エンジンを使い、特定の声を割り当てて、『このエージェントはあなたの音楽の好みをさりげなく方向づけ、おすすめをしてくれる』という設定にする。それをAnthropicで動かしたコックのアドバイスエージェントや、ライブ情報だけを教えるエージェントと並べて使える」

新OS「Sonos 27」は、同社独自のアシスタント「Sonos 27voice」(音楽とムードのキュレーションに特化)と、外部のAIアシスタント・エージェントをSonosに接続できる「Sonos 27mcp」も含む。発表に合わせてBeam UltraサウンドバーとAce Ultraヘッドフォンの2製品も公開された。

コンラッドはもともとPandoraのCTOを務めた人物だ。音楽発見の問題を長く考えてきた人間が、Sonosのトップになって出した答えがこれだという文脈は無視できない。

なぜこれが重要か

SpotifyのアルゴリズムもApple MusicのSiriも、本質的には「サービス側が決めたAI」だった。何を学習して、何を優先して、どんなロジックでレコメンドするかは、ユーザーには見えない。

Sonosが提案するのはその逆だ。「どのAIモデルで動かすか」「どんな性格にするか」「何を優先するか」をユーザー自身がコントロールする。カスタムエージェントは、音楽の発見に「意図」と「関係性」を持ち込もうとしている。

音楽の発見がAIに依存していくのは既定路線だとして、そのAIを誰が設計するかは本来、重要な問いだ。

論点・異なる見方

ただし楽観的になる前に留意すべき点がある。

設定の自由度が増せば使いこなせるユーザーとそうでないユーザーの格差も広がる。「自分だけのAI音楽キュレーター」を作れるのは、AIモデルの違いを理解しているリスナーにとって強力な武器だが、大多数には「設定が面倒なスピーカー」になるリスクもある。

また、AIモデルを「選ぶ」といっても、Anthropicを選ぶかOpenAIを選ぶかで音楽のレコメンドがどう変わるかは今のところ不透明だ。音楽向けのファインチューニングの有無、使えるコンテキスト量、各サービスとのAPI連携の状況――これらが整備されるまでは「好みのロゴをつけたアシスタント」という以上のものにはなりにくい。

カスタムエージェントの「ペルソナ設定」の自由度が、実際のレコメンドの多様性にどこまで結びつくか。ここが評価の分かれ目になる。

今後どう展開しそうか

Sonosのこの方向性が成功すれば、「スマートスピーカーはどのAIアシスタントを載せるか」という競争のあり方が変わる可能性がある。AmazonがAlexaを、GoogleがGeminiを、AppleがSiriをデフォルトで押し込む戦略に対して、「どれでも使える」「自分で選ぶ」というプラットフォームが対抗軸になりうる。

ただしGoogleはGeminiをSonosに提供していない。コンラッドがインタビューで「Googleとの関係は複雑」と述べたことは、このオープン戦略が万能ではないことも示している。

作り手・聴き手への示唆

AI音楽をめぐる議論の多くは「作る側」に集中してきた。Sunoで作った曲は音楽か、著作権はどうなるか、という問いだ。

Sonosが動かそうとしているのは「聴く側」のAI化だ。あなたが何を聴くか、何を好きになるか、どんな音楽との出会いをするか——その過程にAIが介在する度合いが、静かに、着実に増していく。

誰かが設計したAIに音楽の趣味を形成されるのか、自分で選んだAIと対話しながら趣味を育てていくのか。その違いは小さいようで、長い目で見ると大きいかもしれない。


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