ピコ太郎が1年間で80.8曲をリリースするプロジェクト『Tottemo Release 80.8』を完走した。少数精鋭のチームでこの数字を達成できた背景には、生成AIの活用があると本人が明かした。ただし、その使い方は「AIに丸投げ」とは程遠い。

何が起きたか

ENCOUNTのインタビューで、ピコ太郎はプロデューサーの古坂大魔王とともに取り組んだAI活用の実態を語った。

楽曲制作ではアイデア出しをピコ太郎が担い、古坂がアレンジを考える。AIはその「補佐役」として機能する。AIが生成した素材はステムに分解して改めてミックスや打ち込みに使う——完成品をそのまま使うわけではない。

「年間80.8曲をリリースできる実績を作れたのは、AIの力も大きいです。でも、ポン出しはやっぱり、まだしない方がいいと思います。面白くないし、受けないですね」

情報収集にもAIを使った。プロ向けプラグインの最新情報を毎日AIに収集・翻訳させ、英語圏との情報格差を縮めた。生成AIや画像・音楽系AIへの月間コストは10万円以上になることもあるというが、「CGアーティストに100万円払うことを考えれば、はるかに安い」と話す。

なぜこれが重要か

「AIは中央値を持ってくる。モブとしては最高。でも主役は人間」——この一言はAI音楽ツールの現在地を簡潔に表している。

Suno・Udio・ElevenLabs Musicといったツールが急速に普及するなかで、「AIで曲を作る」という行為の意味はすでに問い直されている。ピコ太郎のケースが示すのは、AIを使いながらも人間の判断と意図を抜かさないという一つの実践例だ。小数精鋭で年間80曲以上というスケールを実現できた事実は、AI活用の可能性を具体的な数字で示した点でも注目に値する。

論点・異なる見方

「主役は人間」という言葉は聞こえがよい。ただ、これが成立するのはピコ太郎のようにアイデアと技術判断を持つ人間がいるからで、誰でも再現できる話ではない。

また、AIに月10万円以上を投じても「安い」と言えるのは、それに見合うリターンを得られているからだ。インディペンデントなアーティストにとっての「AI活用コスト」は無視できない問題でもある。

「ポン出しはしない」という姿勢は現時点でのAIの限界——「中央値しか出てこない」——への対処でもある。ツールが進化すれば、この判断は変わりうる。

今後どう展開しそうか

ピコ太郎は「AIがもっと発達して編集も任せられるようになってから、またやりたい」と語った。現在の「AIは補佐役」という位置付けが、ツールの進化とともにどう変化するかは未知数だ。

9月27日に東京・池袋harevutaiで『PPAP X PT ~PPAP10周年プレミアムライブ~』が開催される。80.8曲の成果を踏まえた初の本格ソロライブとして、AI時代の音楽制作が舞台でどう結実するかも見どころになる。

作り手への示唆

「楽器が弾けなくても具体的な音源を作ってミュージシャンに渡せるようになった」——これはAI音楽ツールが広げた制作の間口を正確に言い当てている。ドラムやブラスを諦めていたアイデアが形になる。それだけでも、AI活用の価値は十分にある。

一方で「ポン出し」が「面白くない・受けない」という判断は、最終的に聴き手がいることを忘れない姿勢から来ている。ツールをどう使うかではなく、何のために使うかが問われている。


ソース: ピコ太郎、年間80.8曲リリースの裏に生成AIの力(ENCOUNT)