トランプ政権がAI学習は「フェアユース」と表明——音楽業界の訴訟に何を意味するか
米司法省が9月1日、AI学習は著作権侵害にあたらないとする意見書を提出した。対象はテキストだが、SunoやAnthropicをめぐる音楽業界の法廷闘争にも影響しうる論理が含まれている。
トランプ政権がAI学習は「フェアユース」と表明——音楽業界の訴訟に何を意味するか
米司法省(DOJ)は9月1日、The New York Times 対OpenAI訴訟に「利益声明(Statement of Interest)」を提出した。AI企業がライセンスなしに著作物を学習に使っても著作権法に違反しない、とする立場を初めて公式に示したものだ。
AIをめぐる著作権訴訟に米政府が介入するのはこれが初めてとみられる。同じ「フェアユース」の解釈が争点となっているSuno、Udio、Anthropicへの音楽業界側の訴訟も、この動きと無縁ではいられない。
何が起きたか
20ページの意見書に署名したのはスタンリー・ウッドワード副司法長官。文書にはこう記されている。「米国は、LLMの学習に著作物のテキストを使用することが著作権法に違反するというあらゆる主張を、裁判所が退けることに強い利益を持つ」。
根拠としてDOJが挙げたのは、トランプ大統領が2025年1月と2026年6月に発した大統領令、そして2026年3月公表の「国家AI政策フレームワーク」だ。同フレームワークはAIモデルの学習に著作物を使うこと自体は「著作権法に違反しない」と明言している。
フェアユースの判断に影響する2つの問いについても、DOJは明確な立場をとった。ひとつは「変容性(transformativeness)」——新たな使用が元の著作物をどれほど変容させているか。DOJはLLMの学習を「まったく異なる種類・性格の利用」であり「異常なほど変容性が高い」と論じる。もうひとつは「市場への影響」。「学習データのコピーは元著作物の代替にはならない」とし、学習行為自体は「何も公開しない」ため市場を損なわないとした。
なぜこれが音楽業界にとって重要か
意見書が扱うのはあくまで「テキスト」だ。録音物も楽曲も、20ページのどこにも登場しない。脚注には「本稿の推論は本件および書籍著作者・出版社に関連する訴訟に限定される」とまで書かれている。
それでも無視できない理由がある。フェアユースはフェアユースだからだ。
とりわけ焦点となるのが、DOJがVince Chhabria判事の理論を「根本的に欠陥がある」と断じた点だ。Chhabria判事は2025年のMeta対書籍著作者訴訟の判決で、「AI出力が市場に競合作品を洪水のように流す可能性」を認め、それゆえ学習にもライセンスが必要になりうると示唆した。音楽業界はこの論理を土台に、SunoやAnthropicへの訴訟戦略を組み立ててきた。
DOJの意見書はそこを直撃する。「学習と出力を一続きの行為として扱うのは誤りであり、学習行為の適法性は出力とは切り離して判断すべきだ」という主張だ。もし裁判所がこの論理を受け入れれば、音楽業界は「AI生成曲の洪水が学習の違法性の証拠だ」とは言えなくなる。
論点と複数の見方
NIYTの広報担当グラハム・ジェームズは翌2日、「政権は無数のアメリカ人クリエイターの著作物を盗んだ数兆ドル規模のAI企業の側に立っている」と反発した。「AIとクリエイターはともに繁栄できる。AI企業は著作権法の求めるとおり、コンテンツに正当な対価を払えばよいだけだ」。
一方、AI産業にとっては意見書の射程に注意が必要だ。DOJが擁護しているのはあくまで「学習」という第2段階のみ。第1段階(素材の入手方法)については一切触れていない。Anthropicはすでに2025年、海賊版ライブラリからの書籍ダウンロードについて「大規模な直接的海賊行為」と認定されており(Judge Alsup)、著者らと15億ドルで和解している。Sony Music PublishingとWarner Chappell MusicがAnthropicに起こした最新の訴訟でも、トレント経由の不正入手が2つの訴因の核心にある。そこにDOJの意見書は届かない。
また意見書はあくまで「アドバイス」に過ぎず、Sidney Stein判事が無視しても構わない。拘束力はない。
今後どう展開しそうか
短期的には、Suno・Udio・Anthropicをめぐる各訴訟の弁護士が、この意見書を援用した主張を追加することが予想される。DOJの介入は、同様の訴訟を抱える他のAI企業にとっても心強いシグナルになる。
ただし「学習はセーフ、出力は別問題」というフレームが定着した場合、今度は出力の著作権侵害をめぐる争いが激化する可能性が高い。UMGやSony Musicはすでに、Sunoの生成楽曲が自社カタログの録音物と直接競合すると主張している。DOJが「出力については別途争え」と言っているのは、その戦線を事実上開いているともいえる。
作り手・聴き手への示唆
この展開は、すでに動き出しているライセンス交渉の力学を変えるかもしれない。SunoがBMGと、BandLabがライセンス付きAI音楽で独自の枠組みを作りつつあるなか、大手レーベルが「訴訟で押し切る」シナリオへの確信は揺らいだといえる。
逆に言えば、AI音楽ツールを使って曲を作っている側にとって、「今ここで使える」環境は当面続く公算が高い。ただし、どんな素材でどう学習されたのかという問いは、法廷でも制度でも解決されていない。
ツールが使えることと、その土台が倫理的に整っていることは別の話だ。
Source: Music Business Worldwide