8月31日、グラミー賞6冠のシンガーソングライターJason Isbellと、CrackerおよびCamper Van Beethovenのフロントマンとして知られるDavid Lowery、テキサスのブルースミュージシャンGuy Forsyth、フロリダのサックス奏者Eduardo Calleの4名が、ボストン連邦地裁にSunoへの集団訴訟を提起した。

84ページに及ぶ訴状を貫くのは、一つの宣言だ。「著作権の話ではない」。

何が起きたか

この訴訟には著作権侵害の訴因が1件も含まれていない。代わりに訴状が問うのは、二つの法的概念だ。

パブリシティ権(right of publicity)——アーティストの名前・声・イメージ・アイデンティティを商業目的で使う権利は本人に帰属するという、著作権とは独立した権利。訴状はSunoのv5モデルに「jason isbell」と入力すると、「Americana singer-songwriter with fingerpicked acoustic guitar」と説明されたAmerican曲「Paper Bell」が返ってくることを示す。「camper van beethoven」を入力すれば「[q]uirky late-1980s alternative rock with folk-rock」のトラックが出てくる。

BIPA(イリノイ州生体情報保護法)——Sunoが学習データ処理の過程でアーティストの「声紋(voiceprints)」——ピッチ輪郭・共鳴構造・呼吸パターンなどの音声の固有特性——を無断で収集・保存したと主張する。BIPAはこれを本人の同意なく行うことを禁じている。

Sunoは「アーティスト名をプロンプトとして使うことをブロックしている」と繰り返し主張してきた。しかし訴状は、名前の文字間にスペースを入れるだけでフィルターが回避できること、さらにSuno自身の有料アフィリエイトがその方法を教えるチュートリアルを公開していたことを指摘する。「Sunoはブロックしていると言うが、現実には名前を受け付け、そのアーティストのアイデンティティに基づいた出力を返す」と訴状は述べる。

提訴にあたりMusic Business Worldwideが入手した訴状は、冒頭をスタートレックのボーグへの喩えで始める。「ミュージシャンのアイデンティティは彼らの財産だが、Sunoは同意なくそれを奪った。この訴訟は、ミュージシャンたちが『抵抗は無意味』という前提に抵抗する手段だ」。

なぜこれが重要か

この訴訟が持つ最も鋭い論点は、現在進行中の「AI音楽ライセンス合意」が実際には何を守り、何を守らないのか、という問いへの直撃だ。

訴状はWarner Music Group自身の2025年11月のSunoとの和解・ライセンス合意を証拠として引用する。その契約では、アーティストと作曲家に「名前・イメージ・肖像・声・楽曲がAI生成音楽にどう使われるかについての完全なコントロール」が与えられる——と規定されているが、それは「参加している権利者と関連クリエイター」に限られる。Isbellのような、WMGとは無関係のアーティストはそこに含まれない。

言い換えれば、「レーベルがSunoとライセンス契約を結んでも、アーティスト個人のアイデンティティ権は別物」という主張だ。この論理が通るなら、現在急速に締結されているAI音楽ライセンス合意の多くが、アーティスト保護の観点では穴だらけになりうる。

訴状も明言している。「レコード会社が録音物をライセンスする権限は、それ自体では、パフォーマーのアイデンティティを使う権利をSunoや他のAI企業に与えない」。

論点・異なる見方

訴訟としての強さ。 パブリシティ権に基づく訴訟は著作権訴訟より法的基盤が州ごとに異なるという複雑さを抱える。連邦法ではなく州法上の権利であるため、どの州の法律が適用されるかという問題が発生しうる。また「Sunoの出力がIsbellのアイデンティティを蒸留しているかどうか」の立証は、著作権侵害の立証とは別の難しさを持つ。

Sunoの反論の余地。 Sunoは「汎用的なスタイルを学習しているのであって、特定のアーティストのアイデンティティを複製しているわけではない」と主張する可能性がある。Americana系のサウンドはIsbellの専有物ではないという反論も考えられる。

声紋の定義。 BIPAが「voiceprints」として保護する対象が、AI学習処理の中間的な表現に適用されるかどうかはまだ法的に確定していない。Suno側は「BIPAが想定するvoiceprintとはまったく異なるものだ」と争う余地がある。

著作権訴訟との関係。 同じボストン連邦地裁では、UMG・Sony対Sunoの主力著作権訴訟が秋の節目を迎える。今回の訴訟は担当判事が異なる可能性があるが、AI音楽訴訟全体の司法的な雰囲気を左右しうる。

今後の展開

訴状は具体的な損害額を明示していない。連邦裁に持ち込むための基準額500万ドルを超えると述べるにとどまり、アーティストの同意なく得たSunoの利益返還や懲罰的賠償を求めている。提案クラスの規模について訴状は「Sunoは事実上インターネット上のすべてのミュージシャンの作品を学習した」と述べており、「何百万人ものミュージシャン」のアイデンティティが関わるとする。

同様の生体情報・パブリシティ権クレームはすでに2025年10月にイリノイで別グループのミュージシャンが提起している(こちらは著作権侵害も含む)。今回の訴訟はその著作権部分を完全に外し、より純粋にアイデンティティの問題として提起している点が特徴的だ。

作り手・聴き手への示唆

IsbellとLoweryの訴状が突きつけているのは、ある問いだ——「自分の名前を打ち込むと自分のように聴こえる曲が出てくる」という体験は、著作権の問題か、それとも別の何かか。

著作権は楽曲や録音の「作品」を守る。しかしアーティストとして長年かけて積み上げた声の個性、音楽的特徴、「らしさ」は、必ずしも著作権で守られていない。今回の訴訟は、その隙間に存在する権利——パブリシティ権と生体情報プライバシー——を前面に出している。

音楽業界とAI企業の間でライセンス合意が進む中、誰の、何の、どの権利が守られているのかは、今後の訴訟と立法によって徐々に輪郭が明らかになっていくはずだ。Isbellらの訴訟はその地図に、新しい線を引いた。


ソース: Music Business Worldwide