8月20日、マサチューセッツ州連邦地裁のF. Dennis Saylor IV判事は、カントリーアーティストのTony Justiceらが提起したSunoへの集団訴訟について、Sunoが求めた棄却申立(motion to dismiss)を認めないと判断した。生き残ったのは計3つの訴因のうちのうち2つ——AI出力物による著作権侵害と、YouTubeからの違法な音源ダウンロード(stream ripping)に関するDMCA請求だ。

何が起きたか

Tony Justiceは、米テネシー出身のカントリーアーティストで現在もトラック運転手を続けながら音楽活動を行っている。彼の「Last of the Cowboys」はSpotifyで800万回以上ストリーミングされている。JusticeとレーベルのFifth Wheel Records、出版社My Heartland Publishingは2025年6月、Sunoを訴えた。同時期にUdioに対する同様の訴訟もニューヨークで提起している。

訴状の核心は「Sunoは著作権者の許諾なく楽曲をダウンロードし、モデルの学習に使い、元の楽曲に酷似した出力を生成している」というものだ。提案されたクラスは、2021年1月1日以降にストリーミングサービスで楽曲を公開したすべての独立系アーティスト・ソングライター・プロデューサーを対象にしている。

Sunoは3つの訴因(第2、3、4因)について棄却を申し立てた。Saylor判事は以下のように裁定した。

第2因(派生著作物の無断作成)→ 棄却申立を却下
Sunoは「訴状の段階で侵害された具体的な出力物を特定すべき」と主張したが、Saylor判事はこれを退けた。「motion to dismiss段階では、原告が派生著作物を提示する絶対的な要件はない」。訴状がSuno CEOの発言(「Sunoのモデルはすでにアーティストの声と楽曲を複製する出力を生成できる」)を引用しており、「SunoのモデルがJusticeらの楽曲と実質的に類似した出力を生成してきたと推測することは合理的だ」とした。

第3因(DMCA第1201条 技術的保護手段の回避)→ 棄却申立を却下
同じくSaylor判事が同月18日にUMG・Sonyによる並行訴訟で出した命令を参照しつつ、「YouTubeのrolling cipherが技術的保護手段に当たり、Sunoがstream rippingツールでそれを回避したかどうか」の判断には「詳細な事実認定が必要」とした。

第4因(テネシー州消費者保護法)→ 棄却
原告団が「引用は誤りだった」と口頭で認め、修正申立もしなかったため却下された。

なぜこれが重要か

この訴訟は、大手レーベルのRIAA主導訴訟から「締め出された」独立系アーティストが自ら起こしたものだ。元の訴状にも「Sunoはあらゆる技術系ビジネスが当然やるべきライセンスの代わりに楽曲を盗み、ほぼゼロコストでAI音楽を生成することを選んだ」と書かれている。

今回の裁定が持つ法的な射程は広い。「訴訟段階では侵害された具体的なAI出力物を特定しなくてよい」という解釈は、今後のAI著作権訴訟において原告が乗り越えるべきハードルを下げる。アーティストが「Sunoの出力物の中に私の楽曲に似たものがあるはずだ」と主張しさえすれば、発見手続(discovery)で証拠を探せる、ということになる。

また6月からHagens Bermanが訴訟団に加わっている点も見逃せない。同事務所はタバコ産業への集団訴訟で約2,600億ドル規模の和解を勝ち取った経歴を持つ。その参加は、この訴訟が長期的・戦略的な視点で組み立てられていることを示す。

論点・異なる見方

インディーアーティストは本当に「置き去り」だったのか。
レーベル訴訟が和解に進んだ場合、その賠償金がすべての著作権者に配分される仕組みになるかどうかは不明確だ。独立系アーティストが自ら提訴することで交渉テーブルの席を確保しようとしている、という見方もできる。

Sunoにとっての実質的な影響。
discoveryで実際に「Justice作品と類似したSuno出力物」が見つかるかどうかは未知数だ。大量生成の確率論的な性質上、特定のアーティストの楽曲に酷似した出力が出た「証拠」を集めることは技術的に容易ではない。裁判はこれからが本番だ。

和解の可能性。
WMGが2025年11月にSunoと和解・ライセンス契約に移行したように、大手との訴訟が解決に向かえばインディーの訴訟も和解交渉のテーブルが動く可能性がある。ただし、独立系アーティストにとって「ライセンス料が払われる仕組み」にたどり着けるかどうかは別の問いだ。

今後の展開

同じSaylor判事が担当するUMG・Sony対Sunoの主力訴訟は、9月30日に事実認定期間(fact discovery)が終了する。その後はフェアユースを核心とする略式判決申立が出される見通しだ。Justice v. Sunoのクラスアクションも同じ法廷で並行しており、主力訴訟の判断が波及することは必至だ。

また、ニューヨークではSonyがUdioに対して7月に3万件超の追加録音を含む第2次訴訟を提起しており、9月18日にはSDNYでのステータス・コンファレンスが予定されている。米国のAI音楽著作権訴訟は秋に向けて複数の節目を迎えることになる。

作り手・聴き手への示唆

Tony JusticeはトラックドライバーでありながらアーティストとしてSpotifyで何百万回も再生されてきた人物だ。彼の訴訟は「大手レーベルではなく、現場で音楽を作り続けている人間」がAI企業に向き合う試みとして象徴的な意味を持つ。

「学習データに使われていたかもしれない」という不安は、多くのアーティストが感じてきたものだ。今回の裁定は、その不安を法廷に持ち込むための最初のハードル——「具体的な侵害出力を出す前に訴訟を起こせるか」——をひとまずクリアした。何が明らかになるかは、これからのdiscovery次第だ。


ソース: Music Business Worldwide