SpotifyがMerlinと独立レーベル向けAIカバー/リミックスライセンス契約を締結した。Merlinは世界70カ国以上の独立レーベルを代表する団体で、グローバル録音市場の約15%を占める。

発表は8月4日(火)。同日Spotifyが公表したQ2 2026決算でも、このトピックが中心的な話題となった。

何が起きたか

SpotifyとMerlinは8月4日、ファン向けAIカバー/リミックスツールに関するライセンス契約を締結したと発表した。Merlinの3万以上の加盟レーベルに所属するアーティスト・ソングライターは、このツールに楽曲を提供するかどうかをオプトインで選択できる。

ツール自体はSpotify Premiumの有料アドオンとして提供予定で、参加アーティストには追加の収益源が生まれる設計だ。

今年5月にはUniversal Music Group(UMG)が最初のパートナーとして契約を発表していた。今回のMerlin合意はこれを独立系セクターに拡張する形になる。一方、Warner Music GroupとSony Music Groupはいまだ未署名。Believeも同様だ。

Q2決算会見でCo-CEOのGustav Söderströmは、アナリストからの質問に対してはっきりと答えた。

「全メジャーと契約する必要はない。できるだけ多くのアーティストに参加してほしいが、全員が揃わないと始められないわけではない」

Söderströmはスポティファイの創業期を引き合いに出した。ビートルズもメタリカも、当初は存在しなかった。それでもサービスは成立したと。

次のステップとして、一部のユーザーを対象とした「研究プレビュー(research preview)」の開始を予告。これはプロダクトのテストではなく、機械学習における強化学習フェーズとして位置づけられる——ユーザーが「このリミックスの方が好き」と評価するたびに、モデルが改善されていく仕組みだ。

「我々には777百万人の音楽ファンがいる。これが強化学習の基盤になる。だからこそ我々はこのビジネスで優位に立てると考えている」(Söderström)

なぜこれが重要か

Merlinの参加は、Spotifyが「インディーズコミュニティの取り込みに成功した」という点で象徴的だ。メジャー3社との交渉が膠着する中、独立系の幅広いカタログを確保することで、ツールの実用性を担保しながら圧力をかける構図になる。

Söderströmは独立系コミュニティの熱量を「striking(際立っている)」と表現した。対照的に、WMGとSony Musicの沈黙が際立つ。

「全メジャー不要」発言は、プラットフォームがライセンス交渉において以前より強い立場を示していると読める。Spotifyの開業時に参照されたビートルズやメタリカの例は単なる比喩ではなく、「後から来た方が損する」という暗黙のメッセージでもある。

論点・異なる見方

ツールの設計思想として、Söderströmは純粋なAI生成音楽との違いを強調している。

「我々がやっているのはリアルなアーティストのためのもの。フェイクアーティストとは無関係だ」

この言い方は、AI音楽に対する業界やリスナーの懸念を意識したものだろう。Spotifyは「既存のアーティストがAIの恩恵を受けられる仕組み」として自社を差別化しようとしている。

ただし、オプトインモデルは理念として理解できる一方で、「同意」の実態が問われる場面はこれから来るだろう。レーベルとアーティストの間でオプトイン判断がどう共有されるのか、個別アーティストが自分の楽曲の扱いを把握できるのか——こうした透明性の問いはMerlin合意の後も残る。

また、未署名のWMGとSonyがこの状況をどう受け取るかも焦点だ。独立系のカタログが先行して機能するサービスが生まれれば、メジャー側の交渉力は相対的に低下する。

今後どう展開しそうか

研究プレビューは近いうちに始まる見込みだが、具体的な日程と価格はまだ発表されていない。Söderströmは「まだ作業が残っている。収益として物質的な規模になるには時間がかかる」と述べており、短期的な収益化よりもモデルの改善に重点を置く段階にある。

SonyとWMGが今後合意するかどうかは不透明だ。一方、先に契約したUMGとMerlinの実績がツールの展開とともに蓄積されれば、未署名の立場でいることのコストが上がる可能性もある。

作り手・聴き手への示唆

この仕組みが動き始めれば、Premiumユーザーは自分の好きなアーティストの楽曲をベースにカバーやリミックスを作れるようになる。その成果物がどこに置かれ、どう流通し、収益がどう分配されるかは、まだ見えていない部分が多い。

Merlinへの参加が「選択できる仕組み」として設計されていることは、小さいようで重要な点だ。アーティストが自分の意思で線を引ける余地がある。サービスが始まった後に「知らなかった」が起きないよう、関係者が注視すべきフェーズはこれからだ。


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