今夏のラップ系ヒット曲として異例の注目を集めていた Fenix Flexin の「Rubberz」が、また新たな局面を迎えた。AI音楽アプリ Treblo(旧:Sonauto)が新たに搭載した検出機能「Was This Made With Treblo?」が、「Rubberz」をAI生成の可能性が高い楽曲として認定したのだ。同ツールは偽陽性率を1%未満と主張しており、Tyga の複数楽曲についても同様のフラグを立てている。

何が起きたか

「Rubberz」は6月5日、Fenix Flexin と Purps on the Beat 名義でリリースされたシンセポップ曲で、Billboard Hot 100 の58位に到達し、YouTube のMVは700万回以上再生された(Wikipedia)。ラッパーとして知られる Fenix がモリッシーを思わせるブリティッシュアクセントで歌うこの曲は、発売当初からAI生成疑惑を持たれていた。

転機は先週末。プロデューサーの Medasin が Instagram に詳細な検証動画を投稿した(WIRED)。彼が指摘した状況証拠は三点だ。①「Rubberz」リリース2日前に Sonauto が Treblo へリブランドしていること、②Fenix の旧 Instagram ストーリーのスクリーンショットに「Sonauto.mp3」というファイル名が映り込んでいること、③Treblo で「80s synthwave」+「rapper lifestyle」を入力すると歌詞・メロディ構造が「Rubberz」と驚くほど類似した楽曲が生成されること——たとえば Medasin の生成結果には「Diamond chains hanging heavy」とあり、Rubberz の歌詞は「Now I bought a heavy diamond chain」だ。

Fenix は動画内で「フリースタイルで録音した。違うのはオートチューンとフェイクUKアクセントだけ」と反論し、プロジェクトファイルを証拠として公開しようとしたが、プロデューサーたちから「ステムセパレーターで既存楽曲を分解しただけに見える」と指摘され、数時間後に投稿を削除した。

そして Treblo 自身が搭載した検出機能が「Rubberz」と Tyga の複数曲に「高確率でTreblo製」とのフラグを立てた。ツールを作った会社が自社ユーザーの楽曲を認定するという、前例のない状況が生まれた。

なぜこれが重要か

いくつかの意味でこれは単なる「AI疑惑スキャンダル」を超えている。

第一に、疑惑の楽曲が実際に Billboard Hot 100 に入ったということだ。AI音楽がチャートヒットになり得るという仮定が、今や現実として検討せざるを得ない段階に来た。Will.i.am は「dope だし、明らかにAIだ」と述べており(Stereogum 報道)、音楽の質とAI生成は排他的ではないと示唆している。

第二に、「AI音楽アプリが自社ユーザーをバラす」という構図が、開示問題を新しい軸から照らした。これまでの議論は「アーティストが自発的に開示するかどうか」に集中していたが、今後はプラットフォーム側が開示の鍵を握る可能性が浮上した。

論点・異なる見方

「証明はまだできていない」 という立場も根強い。Treblo の検出ツールは自社サービスの普及にも直結する宣伝効果があり、独立した第三者による検証は行われていない。Fenix も Purps も正式に認めていない。

「開示がなかったことが問題」 という視点もある。聴き手は Fenix の声だと思って聴いていた。声や作曲の主体についての前提が崩れるとき、リスナーは何を失ったのか——それは音楽の体験そのものかもしれない。

一方で、「ツールが変わっても制作の意図はある」 という議論もある。Treblo でどのプロンプトを入力し、どの出力を選び、どう仕上げたかには選択がある。それを「音楽ではない」とは言いにくい。ただ、それを「Fenix Flexin の声と演奏」として届けることと、「AIを使ったプロデュース作品」として届けることは別の話だ。

今後どう展開しそうか

法的な決着が出るかは不透明だ。AIで生成した楽曲を人間の名義でリリースすることが現状の著作権法でどう扱われるかは、まだ判例が固まっていない領域に属する。Empire Distribution が何らかのアクションを取るかどうかも現時点では不明だ。

より確実なのは、この一件がAI音楽の開示基準をめぐる議論を加速させることだろう。EUのAI Act によるオーディオラベリング義務が8月2日に施行されたばかりの欧州では、すでにこの種の問題への対応が制度として動き始めている(関連記事)。

作り手・聴き手への示唆

Treblo の「自社ユーザー認定」は、AI音楽ツールがいずれ検出ログや生成履歴を持つことを示唆している。「AI使用を隠し通せる」という前提はこれから崩れていくかもしれない。

聴き手の側からすると、「Rubberz」は夏のヒット曲として機能した。それは事実だ。ただ、誰の声を聴いていたのかという問いには、今もまだ答えが出ていない。