AIが生成した音楽の著作権侵害を検知するインフラを提供してきたSoundPatrol(Sound Patrol, Inc.)が、自社ソフトウェアを開発したと主張する二人から訴えられた。

7月28日、音楽マネージメント会社Milk & Honeyの創業者Lucas KellerとグラミーW受賞プロデューサーのOak Felderが、SoundPatrolとそのCEO Walter De Brouwer夫妻を相手にカリフォルニア州上位裁判所(ロサンゼルス)に訴状を提出した。訴えられているのは5件の訴因で、「詐欺的勧誘」「誠実義務違反」などが含まれる。求める損害賠償額は500万ドル(約7億5千万円)超。

何が起きたか

2023年、KellerとFelder、De Brouwer夫妻は、AIを使った音楽生成ツールの開発について話し合ったという。KellerはMilk & Honeyで70人以上のソングライターを代理していることから、AIが著作曲のコード進行を「学習」してしまうリスクを懸念。そこでKellerとFelderが提案したのが、AI生成楽曲に含まれる著作権侵害コードをフラグアップする「著作権チェッカー」だった。

「ソフトウェア合意」のもと、De Brouwer夫妻の会社Snowcrash, Inc.は、このソフト開発の対価としてKellerとFelderにストックオプションを付与することを約束したとされる。ソフトは2024年半ばに完成。同年6月、Snowcrashは両者にそれぞれ34万5000株のオプション(行使価格0.34ドル)を付与したと訴状には記されている。

ところがその後、訴状の主張によれば、2024年4月か5月にKellerとFelderは「強制的に」ソフトウェアの特許をSnowcrashに無償で譲渡させられた。2024年11月にはWalter De BrouwerがSound Patrolという新会社を設立し、2025年2月には特許を含むSnowcrashの資産の大部分をSound Patrolに移転。これによりKellerとFelderのオプションは無価値になったと訴状は訴えている。

「Felder and Kellerはその約束を守り、ソフトを開発した。De Brouwer側は、一歩ずつ悪意ある行動を取り続けた」と訴状は書く。

なぜこれが重要か

SoundPatrolは2025年9月、UMGとソニーミュージックとの「業界初のコラボレーション」を発表した企業だ。「ニューラルフィンガープリント」技術を使い、AI生成楽曲に含まれる著作権侵害を検知するという内容で、メジャー2社のAI対策の中核インフラを担うとされていた。

つまり、AI音楽の著作権を守るための盾として業界が信頼を置いてきた会社が、その盾を作った人間から「盗まれた」と訴えられているという構図だ。

訴状は、この件を「裕福なシリコンバレーの起業家が、成功した黒人アーティストの仕事、才能、善意を私腹のために利用した事案」と位置づけている。

Oak Felderの制作クレジットにはAlicia Keysの「Girl on Fire」、Rihannaの「Unapologetic」、Demi Lovatoの「Sorry Not Sorry」などが並ぶ。

なお、WalterはCAA(クリエイティブ・アーティスツ・エージェンシー)の共同創業者Michael Ovitzと共にSoundPatrolを設立。Snowcrashはもともと2022年3月にUMGとソニーが出資したNFTプラットフォームとして発足しており、Jesse Dylan(ボブ・ディランの息子)も共同創業者に名を連ねていた。

論点・異なる見方

訴状の主張はKeller・Felder側の一方的なものであり、SoundPatrol側はまだ公式にコメントしていない。この種の訴訟では、「アイデアを出した側」と「法的に権利を保有する側」をめぐる争いは珍しくなく、証拠の解釈や契約の解釈次第で結論は大きく変わりうる。

一方で、シリコンバレーの起業家が音楽業界のタレントや知識を活用して技術を構築し、その果実を独占するというパターンへの警戒感は業界内で高まっている。「著作権を守る」と謳うテクノロジー企業が、自身の内部で公正な対価の問題を抱えているというのは、皮肉な構図だ。

今後どう展開しそうか

この訴訟がUMGとソニーとのパートナーシップに影響を与えるかどうかは現時点では不明だ。法廷闘争は長期化する可能性が高く、5月に「変革ロイヤルティ」の必要性をMBWに寄稿していたWalter De Brouwerがどう反論するかも注目される。

AI著作権検知という、業界のAI対策の「インフラ層」で起きているこの紛争は、AI音楽をめぐる法的・倫理的複雑さがツール側だけの問題ではないことを示している。


Source: Music Business Worldwide