GoogleがAI音楽生成モデルの最新版「Lyria 3.5」を、7月29日にFlow Music(同社のAI音楽制作プラットフォーム)へ展開した。

何が起きたか

Google DeepMindによると、Lyria 3.5は「音楽性・歌詞・ボーカル品質において大幅な進化」を遂げたとされる。具体的な改善点として挙げられているのは以下の3点だ。

  • ボーカル表現:「よりリアルで感情的に繊細なボーカル」と「発音の改善」
  • 音楽性:「より豊かで複雑なメロディ構造」でより自然なサウンド
  • 歌詞品質:プロンプトへの追従性向上と、テンポ・尺のコントロールが容易に

新モデルはFlow Music内でのみ提供されており、Sunoらライバルとの差を縮める動きと位置づけられる。

なぜこれが重要か

注目すべきは、モデルの性能向上よりも「書かれていないこと」かもしれない。

Lyria 3(2026年2月)の発表時、Googleは「既存アーティストを模倣するためではなく、オリジナルな表現のために設計された」「著作権とパートナー協定に十分配慮した」と明記していた。今回のLyria 3.5のブログ投稿には、そうした文言が一切ない。SynthID(AI生成音楽に埋め込む電子透かし技術)への言及もなく、著者名も記載されていなかった。

これは意図的なのか、単純な省略なのか——文脈を考えると前者の可能性が高い。

論点・異なる見方

現在、GoogleはLyria 3の学習データをめぐる訴訟を抱えている。2026年3月、独立系ミュージシャンらのグループがGoogleを提訴。「少なくとも4400万のクリップと28万時間分の音楽を、YouTubeから無断でコピーしてLyria 3の学習に使用した」と主張した。

Googleは6月に訴訟の棄却を申し立てている。その論拠はフェアユース(公正使用)ではなく、「ミュージシャンはYouTubeへのアップロード時点でGoogleとその関連会社に対して、コンテンツの使用を許諾する『全世界的・非独占的・ロイヤリティフリー・サブライセンス可能な譲渡可能ライセンス』を付与している」というものだ。

この主張が認められれば、プラットフォームへのコンテンツアップロードが事実上の学習データ提供同意を意味するという解釈が確立される——音楽業界全体にとって重大な前例となりうる。

一方で、Flow Musicの成長には業界との協調路線もある。2026年5月には音楽ディストリビューターのBelieveがFlow Musicと提携し、TuneCore経由でアーティストへの提供を開始した。「GenAIは人間の創造性を高める」というBelieve CEOのコメントは、訴訟と並行して存在する別の現実でもある。

今後どう展開しそうか

Lyria 3をめぐる訴訟の行方が、Lyria 3.5(そしてさらに続くバージョン)の立場をも規定することになる。Googleの「アップロード=ライセンス同意」論が裁判所に認められるかどうかは、AI学習データの法的フレームワーク全体に波及する。

Flow Music自体は急速に機能を拡張しており、先週にはSpaces(「バイブコーディング」ツール)でのソング生成・編集・ステム分割にも対応した。SunoやUdioとの競争が本格化する中で、Googleが著作権問題にどう向き合うかは今後の差別化要因にもなりうる。

作り手・聴き手への示唆

AI音楽ツールを使う側にとって、「誰がどんな音楽で学習させたか」という問いは依然として宙に浮いている。Lyria 3.5のリリースアナウンスがその点に触れなかった事実は、ユーザー自身が問い続ける理由として十分だろう。

Flow MusicはTuneCoreを通じてアクセスできる。興味があれば試してみることはできるが、そのツールの法的な立ち位置は、まだ裁判所が判断を下す前の段階にある。


ソース: Music Business Worldwide