AI音楽をチャートから締め出す条件とは?——メジャー3社含む業界連合が原則案を発表
Sony、UMG、WMGの3大メジャーとBelieve、BMG、HYBE等の独立系が連名で、AI音楽のオフィシャルチャート収録に関する6つの原則を発表。実装はこれからだが、業界の「合意形成の出発点」として注目を集めている。
何が起きたか
2026年7月29日、音楽業界の大規模連合が「生成AIを使って制作された楽曲がオフィシャルチャートに収録されるための条件」を共同声明として発表した。
署名したのは、Sony Music、Universal Music Group(UMG)、Warner Music Group(WMG)の3大メジャーに加え、Believe、BMG、Concord、Dirty Hit、Glassnote Records、HYBE、Mom+Pop Music、Partisan Recordsという独立系まで含む幅広い顔ぶれ。
発表された6原則は以下のとおり。AI音楽がオフィシャルチャートに入るには、これらすべてを満たす必要があるとしている。
- 使用した生成AIサービスが適切に認可されており、合法的であること
- 制作物が実質的に人間の手によるものであること
- ストリーミングやチャートの不正操作が疑われないこと
- 著作権・隣接権・パーソナリティ権を含む適用法を遵守していること
- 使用した生成AIサービスの利用規約に違反しないこと
- AIの使用がストリーミングプラットフォーム上で消費者に適切に開示されていること(業界のラベリング基準や法規制に準じる)
この原則が採用された場合、「完全にAIが生成した楽曲(AI-Generated)」は「実質的に人間の手によるもの」という条件を満たせないため、チャート収録から除外される。
なぜこれが重要か
AI生成音楽をめぐるチャート問題は、すでに個別事例として浮上しつつあった。米英では楽曲"I Run"がAIボーカルを理由にチャートから一時保留され、スウェーデンではAI楽曲が完全に締め出された事例も報告されている。
今回の発表が意味するのは、こうした「場当たり的な判断」を業界横断の共通基準に置き換えようとする試みだ。
加えて背景には、AI楽曲の急増という現実がある。Deezerによれば、2026年6月の時点で1日に約9万曲のAI生成楽曲が同プラットフォームに投稿されており、ピーク日には新着楽曲の50%以上をAIが占めた。ただし消費(ストリーム数)でのシェアは全体の1〜3%にとどまっており、そのうち最大85%が不正ストリームとされている。
業界としては、AIの流入そのものより「不正アクセスと無許諾AI」の組み合わせを問題視しており、今回の原則もその文脈で読む必要がある。
論点・異なる見方
今回の声明に対し、Music Allyは複数の「グレーゾーン」を指摘している。
「適切に認可された」とは誰が認めること? Sunoは現時点でWMGとのみライセンス契約を結んでおり、UMGやSonyとは交渉中もしくは係争中だ。Udioは逆にWMG・UMGとは合意済みだがSonyとはない。どこまで契約すれば「適切に認可された」と見なされるのか、基準は示されていない。
「実質的に人間の手による」をどう測るか? 先月RIAA・IFPIが提案した「AI-Generated / AI-Assisted」の2段階ラベリング案がその判断基準になり得るが、ストリーミング各社はまだ採用していない。
自己申告に頼る限界。 ルールに従う気のない制作者は申告しない。DeezerやBillboardはAI検出技術を活用しているが、全プラットフォームで一様に機能するわけではない。
また今回の発表に、チャート運営側(Billboard、OfficialChartsなど)は含まれていない。レーベル側が「議論の出発点」と位置づけているとおり、実際に誰かがこの原則を採用するかどうかはこれから次第だ。
今後どう展開しそうか
短期的には、チャート各社や業界団体がこの原則に対してどう反応するかが焦点になる。採用・修正・無視のいずれの選択も十分にあり得る。
中期的には、AI音楽の検出・ラベリング技術の精度と普及速度がカギを握る。自己申告ベースのシステムは抜け穴が多く、プラットフォーム側の技術的対応なしには機能しにくい。
また、オフィシャルチャートとSpotify・AppleなどのDSP独自チャートが異なるルールで動く場合、文化的・商業的な「チャートの二重構造」が生まれる可能性もある。どちらが「リスニングの実態」を反映しているのか、という問いはより複雑になるだろう。
作り手・聴き手への示唆
「実質的に人間の手による」という基準は、AIを使って音楽を作っている人にとって他人事ではない。自分の制作プロセスをどう説明し、どう開示するかという問いは、すでに現実のものになりつつある。
一方で今回の原則は、AIを使った音楽制作を全否定するものではない。条件さえ満たせばチャート入りも認められる——という枠組みは、AI音楽を「チャートの外側」に置き続けるよりも、実態に即した落とし所かもしれない。
ただし、その「条件」の中身が誰によってどう決まるのかは、引き続き注視が必要だ。