BTSを擁する韓国エンターテインメント大手HYBEが、AIボイス合成企業Supertoneを解散することを決めた。7月23日付の韓国金融監督院への規制開示によると、Supertoneの株主総会は7月15日に解散決議を行い、清算人が選任された。HYBEは「AI事業戦略の再編の一環として下した決断」と説明している(韓国経済日報報道)。

HYBEが2021年にSupertoneへ最初に出資したのは約4億ウォン(当時約3.6億円)、2022年に追加取得した際の取引規模は約450億ウォン(約32億円)で、合計投資額は約490億ウォン(約35億円)にのぼる。

なぜ解散に至ったか

数字を見れば答えは明快だ。ソウル経済日報の報道によると、Supertoneの2025年の売上高は約23億ウォン(約1.6百万ドル)、営業損失は約154億ウォン(約1,050万ドル)。HYBEとの内部取引収益も2023年の2億ウォンから2024年には6,100万ウォンへ急落した。

主力プロダクトであるボイス変換(Shift)、ノイズ除去(Clear)、空間オーディオ(Air)の各ツールは、現在外部への売却が検討されているという(ソウル経済日報、7月26日報道)。

Supertoneの技術はHYBEのAIプロジェクトに活用された。2023年のMIDNATTは6言語でリリースされたシングル「Masquerade」でボイス合成を使い、バーチャルグループSYNDI8にも導入された。ただしどちらも商業的に確立したアクトには育たなかった。SYNDI8のデビューはK-POP팬の一部から批判も受けている。

矛盾するメッセージ

タイミングに注目したい。HYBEが6月30日に開示した2025年サステナビリティレポートでは、SupertoneはDRIMAGEおよびHYBE NEXT ENTERTAINMENT BUSINESSと並んで「テクノロジー主導の将来成長事業」に分類されていた。株主総会の解散決議はその2週間後、7月15日のことだ。

外部向けのナラティブと内部判断の乖離は珍しいことではないが、この時差はAI音楽関連事業の持続性についての問いを鮮明にする。投資家や業界関係者に向けて描かれた「成長ストーリー」と、実際の収益力の間に大きな溝があったことを意味するからだ。

何を示すか

Supertoneの解散を「AIボイス技術の失敗」として一般化するのは早計だ。技術自体は一定の評価を受けており(Disney、Netflix、ZEPETOとのパートナーシップも公表している)、ツールの売却交渉が進んでいることも技術価値の存在を示す。

問題はより根本的なところにある——AIボイス技術を「音楽ビジネス」のなかで単独の収益源として成立させることの難しさだ。HYBEのような巨大グループにとってさえ、AI音楽子会社を自走させることはできなかった。

一方でHYBEはAIへの投資を止めていない。Bang Si-hyukChaiman(韓国語:방시혁)は6月のソウルでのタウンホールでUMG CEOのSir Lucian Graingeとともに「エンターテインメントライフスタイルプラットフォーム」としてのAI戦略を語っている。Supertoneの解散は撤退ではなく、戦略の絞り込みという見方もできる。

作り手・聴き手への示唆

「AIで声を変える」「多言語でリリースする」という技術的可能性は証明されている。ただし技術が存在することと、それを継続的なビジネスに変えられることは別の話だ。

Supertoneが採算ラインに乗れなかった背景には、K-POPリスナーからの懐疑的な反応もあったかもしれない。ファンが求めているのは技術的なサプライズではなく、アーティストとの繋がりや信頼であることを、この事例は静かに示している。


ソース: Music Business Worldwide(2026年7月28日)、韓国金融監督院 DART開示(2026年7月23日)