AI編集ツールのKapwingが、SpotifyとYouTubeにおける人気AIミュージックアーティストの収益を分析したレポートを公開した。上位10組の合計収益は約610万ドルに上り、プラットフォーム上でAI音楽が一定の経済的存在感を持ち始めていることが改めて浮き彫りになった。

何が起きたか

Kapwingは、AIミュージックのチャートデータベース「AiMCharts」に登録されたアーティストのSpotifyとYouTubeのストリーム・再生数を集計し、業界標準レートで収益を推計した(Spotify: 1ストリームあたり$0.004、YouTube: 1,000再生あたり$2.12)。

主な数字は以下のとおり:

  • Spotify上位10組の合計推定収益:約238万ドル(約5億9,500万ストリーム)
  • YouTube上位10組の合計推定収益:約370万ドル(約17億5,000万再生)
  • Spotifyトップ稼ぎ手:Enlly Blue(推定38万800ドル、約9,520万ストリーム)
  • YouTubeトップ稼ぎ手:Cherry 葵 Nightcore(推定200万ドル、約9億4,100万再生)

個別のケースも興味深い。ブルース系ヴォーカリスト「Enlly Blue」は、AIが生成したと見られるボーカル・歌詞・画像を使った「1950年代風アーティスト」という合成ペルソナだ。作曲・プロデュースは人間が関与している可能性があるものの、全体としては「AIが人間に成り済ます」構造になっている。

シンセロックバンド「Masters of Prophecy」は全プラットフォーム合計3,610万フォロワーを抱える。SunoベースのプロジェクトであるこのアクトはYouTubeで2026年2〜6月の4カ月間に3,000万人のチャンネル登録者を獲得したとされるが、その成長曲線は「特定の1日に300人未満から一気に10万人超」という不自然なパターンを含むと研究者たちは指摘している。

なぜ重要か

「AIが作った音楽がストリーミングで稼げるか」という問いに、610万ドルという数字が一つの答えを出した。とはいえ、この数字の文脈を読み取ることが重要だ。

音楽産業全体の規模(IFPIの推計では2025年のグローバル録音音楽市場は約290億ドル)と比べれば、610万ドルは0.02%にも満たない。ただし上位10組に絞った話であり、実際にはAi音楽の裾野全体では数百〜数千のアカウントが五桁〜六桁ドルの収益を得ていると、レポートは示唆している。

もう一つの論点はDeezerのデータと照合した場合のリアリティだ。Deezerは2026年5月時点でアップロード楽曲の40%以上がAI生成だと報告している。上位10組のトップアーティストが数百万ドルを稼ぐ一方で、大多数のAI楽曲はほぼ聴かれないまま流れていく構造がある。

論点・異なる見方

プラットフォームの対応:Spotifyは2026年7月にAIスパム対策ポリシーを強化した。Cherry 葵 Nightcoreについては「本人はAIを使っていないと主張している」ケースであり、AIアーティストの定義自体が揺れている。人間がDAWで編集した楽曲でもAI成分が含まれていればAIアーティストとみなすのか、という問いはレポート自身も留保している。

成長の「正当性」問題:Masters of Prophecyの急成長は「不自然」と指摘されているが、プロデューサーのJames Bakerは「歌詞・映像・制作に数時間の人間の作業を組み合わせている」と述べる。急激なフォロワー増加が購買行為によるものかアルゴリズム推薦の偶然かは外部からは判断できない。

収益の帰属:Enlly Blueのような合成ペルソナが稼いだ収益はどこに行くのか。アップローダーが受け取ることになるが、AIが「代替」している声(ヴォーカリスト)や楽曲スタイル(ブルース)の原作者には何も入らない。

今後どう展開しそうか

プラットフォームがAI検出・ラベリング・収益制限の強化を進める中で、現在稼いでいるAIアーティストの多くが今後も同様の収益を維持できるかどうかは不透明だ。Spotifyのスパム対策強化やDeezerのAI検出器が機能し始めれば、発見可能性(discovrability)が下がる可能性がある。

一方で、King WilloniusのようにAIコメディというニッチで500以上のチャート入りを果たすアーティストや、人間の顔が見えるThe Professor Nick Harrisonのような存在は、プラットフォームのポリシー変化にも対応しやすいポジションにある。

作り手・聴き手への示唆

「AIで音楽を作って稼げる」というのは今や事実だ。ただし610万ドルはトップ10の話であり、その中でも1位と10位の差は大きく、大半のAI楽曲は事実上収益ゼロに近い。

注目すべきは稼いでいるアクトの共通点だ。Enlly Blue(ペルソナの一貫性)、Masters of Prophecy(ジャンルへの特化とコミュニティ形成)、The Professor Nick Harrison(人間の顔とファン接点)——いずれも「量を流す」だけでなく、何らかの軸を持っている。AIを使いながらも、選択・意図・継続性が収益に繋がっている。

ツールが手軽になっても、聴かれるための戦略は変わらない。それは今も昔も同じだ。


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