ギター弦の世界的ブランドD'Addarioが、7月下旬に公開した新弦「NYXL HD」のデモ動画をめぐってAI使用疑惑を受け、公式に否定した。

何が起きたか

D'Addarioは7月20日、エクステンデッドレンジ・ドロップチューニング向けに設計した新弦「NYXL High-Density(HD)」のプロモーション動画をInstagramに投稿した。動画に使われたバッキング音楽に対して「AI生成音楽ではないか」とする声が視聴者から上がり、コメント欄が批判で埋まった。

D'Addarioは7月24日、公式アカウントで声明を発表した。

「このデモを、クオリティの高いミックスで見せることを選択した。それは裏目に出た。しかし、AI作成ではない。ギターはすべて実際にトラックを録音した。ドラムとシンセはMIDIプログラム。そこに大量のプラグインとプロダクションが加わっている」

同社はまた、一部コメントの削除とアカウントのブロックを実施したことも認めた。理由として「社員へのハラスメントから守るため」と説明している。

ギターYouTuberのKmacによる「これはAIではないか?」という指摘動画がきっかけで疑惑が広がったとされており、Guitar Worldが7月24日に経緯を詳報した。

なぜこれが重要か

今回の騒動は、AI音楽をめぐる緊張が音楽業界のコア中のコア——ギタリストと楽器メーカーの関係——にまで侵食しているという事実を示した。

「音が良すぎる」「機械的に整いすぎている」という感覚的な疑念が、実際の制作プロセスの証拠提示を求める圧力に変わっている。製品を紹介するためのデモ音源でさえ、その制作工程を説明しなければならない場面が生まれつつある。

D'Addarioがどの程度AIを「使った」と見なすかは話が複雑でもある。「ドラムとシンセはMIDIプログラム、プラグイン多用」というのはデジタル制作の標準的な手法だが、そこをどう定義するかで「人間が作った音楽」の輪郭は変わる。同社が主張したのは「AIで生成していない」であり、「人間が弾いた」ではない。

論点・異なる見方

コメント削除とアカウントブロックは批判のもうひとつの焦点になった。「透明性を要求している側に対してコメントを消す」という行動は、疑惑を払拭するどころか疑念を強める効果を持ちやすい。同社が「ハラスメントからの保護」と説明したことは一定の理解を得たとしても、どのコメントが削除されたのかが不明瞭である以上、「都合の悪い批判を消した」という見方を完全に退けるのは難しい。

一方で、疑惑を最初に提起したYouTuberの動画が大きな拡散を持った背景には、「ブランドがAIを使いたがっている」という先入観がある。音楽ギア業界でも低コストな動画制作のためにAI音楽を採用するケースは増えており、警戒心自体は的外れではない。ただ、今回のケースではその警戒が誤爆した。

今後どう展開しそうか

「制作プロセスの証明」を求める声は、ブランドコミュニケーションにおける新しい標準になりうる。特にギタリストなど「人間の演奏」への感度が高いコミュニティ向けに発信する企業は、今後デモ制作の透明性を意識した発信を迫られる可能性がある。

NYXL HD弦そのものへの評価は現時点では議論が続いている。音楽業界とは無関係な製品の品質論争に、AI疑惑が重なった格好になった。

作り手・聴き手への示唆

AI検知ツールの精度が上がり、「AIかどうか」を問う感覚がコミュニティに広まると、制作者が受け取るのは疑惑ではなく説明コストだ。「人間が作ったこと」を証明するためにプロセスを開示する、あるいは開示しないことが一つの選択になる。

誰かに疑われたくないなら証明すればいい——というロジックは単純に聞こえるが、制作の自由や内部情報との兼ね合いもある。どこまで見せるかの判断を、作り手一人ひとりが迫られる時代がじわじわと近づいている。


ソース: D'Addario responds to AI controversy in string demo video | Guitar World