「バディ・ホリーの死について歌を書いてほしい」——そう頼んだとき、ClaudeはDon McLeanの『American Pie』の歌詞をそのまま返してきた。

このエピソードは、Concord Music Group、Universal Music Publishing Group(UMPG)、ABKCO Musicが7月22日に米国北カリフォルニア連邦地裁に提出した第二次修正訴状(Second Amended Complaint)に記録された事例のひとつだ。2023年10月に始まったこの訴訟は、ディスカバリーを経て具体的な内幕を明かしつつある。

何が起きたか

71ページに及ぶ修正訴状の核心は「意図」の立証だ。訴訟上の証拠開示(ディスカバリー)で入手したAnthropicの社内記録を武器に、出版社側は歌詞の複製が事故でも見落としでもなく、設計された機能であったと主張する。

訴状が具体的に記録しているのは以下のような事実だ。

  • Anthropicの共同創業者Tom Brown氏が、社内でClaudeに「ボブ・ディランの『Desolation Row』の歌詞を教えて」と入力していた
  • モデルの微調整(ファインチューニング)を担う外部ワーカーが、出版社の楽曲歌詞をプロンプトとして使用していた
  • 2021年6月、共同創業者のBen Mann氏とJared Kaplan氏が著作権表示を削除する抽出ツールを選択する場面があり、著作権情報は社内で「無用なゴミ(useless junk)」と呼ばれていた
  • 提訴の1ヶ月前にあたる2023年9月の9日間だけで、Claudeのプロンプトと出力に「lyric」という語が17万件以上登場していた

調査として実施された問いかけでは、Claudeは『Roar』『I Will Survive』『American Pie』『What a Wonderful World』などの歌詞を、原文と同一またはほぼ同一の形で出力したとされる。冒頭のAmerican Pieの例は、タイトルすら指定しない問いかけへの応答だった。

出版社はこう断じている。「Anthropicの著作権侵害は革新ではない。平たく言えば、それは窃盗だ(In layman's terms, it's theft.)」

なぜこれが重要か

Suno・Udioをめぐる訴訟が「AI音楽生成における学習データの無断利用」を問うているのに対し、この訴訟が問うのは「汎用AIチャットボットによる歌詞の無断出力」だ。対象はまったく異なる。

音楽出版ビジネスの観点では、歌詞は楽曲の著作権とは独立した「テキスト著作物」として保護される。ClaudeがWeb上の歌詞データを学習し、それをユーザーに出力するとすれば、「音楽生成AI」を一切使っていなくても侵害が成立しうる——というのがこの訴訟の射程だ。

加えて、ディスカバリーで得られた社内記録の存在が、訴訟に別の重みを加えている。「知っていたか」「意図したか」という問いに対し、創業者自身がClaudeに歌詞を問い合わせていた記録は、フェアユース(公正使用)の抗弁を使いにくくする可能性がある。

Anthropicは2025年1月、Claudeが著作権のある歌詞を出力しないための「ガードレール」維持を義務付ける仮処分に同意している。しかし出版社側は、その後もClaudeが歌詞を出力し続けていると訴状の中で主張している。

論点・異なる見方

Anthropicは「Claudeの学習は公正使用に当たる」と主張し、争う姿勢を崩していない。2025年3月、Lee判事は予備的差止命令の請求を退けており、「賠償金で回復可能な損害」という枠内で推移してきた。

ただし、修正訴状の登場で状況は変わりうる。出版社側は「侵害ごとに最大15万ドルの法定損害賠償」を求めており、対象となる約500曲(別途係争中の第2訴訟では2万曲超)が全件で認定されれば請求総額は膨大になる。

タイミングも注目点だ。Anthropicは6月に企業評価額9,650億ドルでの資金調達を完了し、IPO申請を機密裏に提出したと報じられている。年換算売上高は2026年5月時点で470億ドルを超えたとされる。一方で7月20日には、著作権のある書籍の無断学習をめぐる作家らとの訴訟に15億ドルで和解したばかりだ。

急成長と複数の著作権訴訟が並走するこの状況は、上場前に片付けたい案件が積み上がっていることを示している。

今後どう展開しそうか

出版社側は2026年3月、「フェアユース抗弁を事前に退けるよう求める略式判決の申立て」を提出している。この結論が訴訟の流れを左右する。申立てが認容されれば損害賠償額の算定フェーズへ、却下されれば正式な裁判に進む。

Anthropicが和解に傾くとすれば、書籍訴訟の15億ドルが一つの基準になる。ただし歌詞は書籍より権利の細分化が進んでおり、単価交渉には時間がかかる可能性がある。BMGが2026年3月に493曲で第3の訴訟を追加提起していることからも、音楽出版社の方針は「個別決着より業界横断での解決」に向かっているように見える。

作り手・聴き手への示唆

今回の訴訟はSunoでもUdioでもなく、Claudeが対象だ。音楽を作っていなくても、AIに歌詞を尋ねる行為そのものが著作権侵害の連鎖に連なりうる——という法的構図は、AI全般の使われ方に関わる問いを突きつける。

「歌詞の参考にAIを使う」行為がどこまで許容されるかは、この訴訟の結末次第で少しずつ輪郭が変わっていく。答えはまだ出ていない。ただし「AIが出力した歌詞をそのまま使う」ことのリスクは、この訴訟が進むほど無視しにくくなる。


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