何が起きたか

2026年7月16日、Elon Muskが率いるXと音楽出版社17社は、2023年6月に始まった著作権侵害訴訟を双方の合意による取り下げ(joint stipulations of dismissal)で終結させた。

原告はNMPA(全米音楽出版協会)が主導し、Sony Music Publishing、Universal Music Publishing Group、Warner Chappell Musicを含む17社。2023年の提訴では、Xが約1,700曲の楽曲を無断で利用してプラットフォームを運営していると主張し、2億5,000万ドル以上の損害賠償を求めていた。

今回の取り下げは「棄却を伴うもの(with prejudice)」であり、双方ともに同一の訴えを再提起できない。ただし、和解の具体的な条件は一切公開されていない。ライセンス契約が締結されたのか、金銭的な支払いがあったのか——いずれも明らかにされていない。

Source: Music Business Worldwide


なぜこれが重要か

この訴訟の決着そのものより、「何が決まっていないか」が重要だ。

MetaはMeta Music、YouTubeはContent ID、TikTokはそれぞれ音楽ライセンス契約を締結しており、ユーザーが音楽を使ったコンテンツを投稿できる法的根拠を持つ。ところがXは、3年間の法廷闘争を経た今も、ライセンスの有無を公表していない。

Xは音楽が大量に流通するプラットフォームだ。アーティストの公式ミュージックビデオから、SunoやUdioで生成されたAI音楽のクリップまで、毎日膨大な音楽コンテンツが投稿される。それらが法的にどのような根拠の上に乗っているのか、訴訟の終結後も答えは出ていない。


論点・異なる見方

出版社側にとって、非開示の和解は必ずしも敗北ではない。$250Mを求めた訴訟を何らかの形で決着させたことは、「無視すると訴えられる」というシグナルを業界に送ることができる。ただ、条件が非公開であれば前例にはなりにくい。

Xにとって、非開示の和解は柔軟な選択だ。ライセンス料を支払っていたとしても公言する必要はなく、また支払いがなかったとしても「法的リスクを解消した」という事実だけが残る。

アーティスト・クリエイター側から見ると、状況は変わっていない。Xでの音楽投稿が法的に保護されているかどうかの答えを、プラットフォームは提示していない。

AI音楽の文脈では、問題はさらに複雑だ。SunoやUdioで生成した楽曲をXに投稿する行為が問われるとき、プラットフォームのライセンス状況だけでなく、AI生成音楽そのものの著作権帰属も問われる。訴訟の決着はその答えに何も加えない。


今後どう展開しそうか

Xが音楽産業との関係を本格的に構築する意図があるとすれば、Spotifyのような楽曲ライセンスではなく、コンテンツIDに近い仕組みを導入する方向が考えられる。しかし現時点でそうした動きは見えていない。

一方、今回の和解が「条件非開示」で成立したことは、他のプラットフォームに対する訴訟でも同様の結末が交渉カードになりうることを示す。音楽出版社は今後も法的手段を交渉の圧力として使い続けるだろう。

GEMA対Sunoのミュンヘン判決が7月31日に控えているなど、AI音楽をめぐる著作権判断が積み重なる時期に、Xとの和解は「決着したが曖昧」というひとつの先例になるかもしれない。


作り手・聴き手への示唆

Xで音楽を共有している人——とりわけAIツールで作った楽曲を投稿しているクリエイターにとって、この和解は「安心の根拠」にはならない。プラットフォームが法的リスクを解消したとしても、投稿コンテンツの権利関係はユーザー自身の問題だ。

今起きていることの大きな流れを見れば、プラットフォームは次々と音楽産業との関係を整理しつつあり、X もいずれその対応を迫られる。その時、AI生成音楽がどう扱われるかは、まだ誰にも分からない。