AI音楽生成サービスSunoをめぐる訴訟が、新しい局面に入っている。

何が起きたか

Universal Music Group(UMG)とSony Music Entertainmentは、Sunoへの著作権侵害訴訟に61,026曲の追加を求めていた。もともとの訴状が主張する楽曲数は560曲。音声フィンガープリントサービスのAudible Magicを使ってSunoの学習データを解析した結果、それだけの録音が見つかったというのが理由だ。

これに対してSunoは7月2日、マサチューセッツ州連邦地裁に文書を提出し、「同種の申し立てを退けた別の裁判所の判断」を援用した。参照したのは、6月29日にニューヨーク州連邦地裁のHellerstein判事が下した決定だ。その裁判──SonyとUdioの訴訟──では、「事実審理の終盤に3万件超の作品を追加することは、大幅な追加手続きを要し、争点を不当に拡大する」として却下された。

「原告には、すべての著作権侵害に対して救済を求める権利がある。しかしそれを、この訴訟の中でやる必要はない」というHellerstein判事の言葉が、Sunoの申立書でそのまま引用されている。

なぜこれが重要か

金額の問題が大きい。米著作権法が定める故意侵害の法定損害賠償は1作品あたり最大15万ドル。561曲なら上限は約8,400万ドル(約120億円)。61,026曲になれば、理論上の上限は91億ドル(約1.3兆円)を超える。

ただし金額の問題だけではない。この訴訟の核心は「AIの学習データへの無断使用がフェアユースにあたるか」だ。訴訟対象の作品数が増えることで、フェアユースの審理そのものが後ろ倒しになるリスクがある。Sunoはそれを最も懸念しているとみられる。

なお、当初は共同原告だったWarner Music Groupはすでに2025年11月にSunoと和解し、ライセンス契約を結んでいる。現在の原告はUMGとSonyの2社だ。

立場の違い

レーベル側は「6万1千曲でも、見つかった侵害全体のほんの一部」と主張する。実際にどれだけの楽曲が学習データに含まれているかを明らかにするためにも、拡大は必要だという立場だ。

Suno側は「事実審理の終盤に作品数を指数的に拡大しようとするのは、大手権利者の常套手段だ」と批判する。2年にわたる証拠開示手続きを経た今、さらなる拡張を認めれば裁判は長期化し、フェアユース判断が遠のくと訴えている。

Udoio判例への言及は、法的な説得力を持つと同時に、二つの訴訟が共鳴しながら展開していることを示している。片方の訴訟の判断が、もう片方の訴訟に波及する。AI音楽をめぐる法廷闘争は、ケースバイケースでありながら相互に参照し合う構造になってきた。

今後どう展開しそうか

マサチューセッツ州のSaylor判事がSunoの申立てを認めるかどうかは、まだ決まっていない。Udio訴訟の判断はあくまで別の裁判所のものであり、拘束力はない。

ただ、業界全体が見ているのは「6万1千曲追加の可否」という技術的な論点だけではない。AIが学習に使用した楽曲を、裁判の俎上にどこまで載せられるのか──その線引きが、今後のライセンス交渉や和解の相場観を決める可能性がある。

作り手・聴き手への示唆

この裁判が示しているのは、「AIが何を食べてきたか」を明らかにしようとする試みが、法廷という形で続いていることだ。SunoはAIモデルの構築に「何千万もの音源のインスタンス」を使ったと自ら認めている。その規模の学習がフェアユースかどうかという問いに、答えはまだ出ていない。

訴訟の結果がどちらに転んでも、AI音楽ツールを使っている人間にとって無関係な話ではない。今後のライセンス体制や、ツールのコスト構造に直結しうる。


ソース: Music Business Worldwide – Why a fight over 61,000 recordings could shape the future of AI music licensing(2026年7月14日)