音楽業界が動いた。7月10日、RIAA・IFPI・グラミー賞・SAG-AFTRAほか計8団体が連名で、生成AIを使った楽曲に「AI-Generated(AI生成)」または「AI-Assisted(AI支援)」のラベルを付けるプログラムを発表した。

ストリーミングサービスのトラックレベルで表示される視覚的なアイコンとメタデータを用い、グローバルな業界標準を目指す。

何が起きたか

発表に名を連ねたのは、IFPI、RIAA、A2IM(米国インディーズ協会)、WIN(世界インディーズネットワーク)、IMPALA(欧州インディーズ協会)、グラミー賞主催のThe Recording Academy、SAG-AFTRA、そしてHuman Artistry Campaign。録音音楽の主要団体がほぼ横断的に揃った形だ。

ラベルの定義は以下の通り。

AI-Generated(AI生成):楽曲の主要な創作要素の全部または大部分を生成AIが担っているケース。リードボーカルをAIが生成している、主要な楽器パートをAIが生成している、またはプロンプト入力だけで生成されたAI音楽、がその例として挙げられている。

AI-Assisted(AI支援):楽曲の大部分は人間が制作しており、人間の創造性を表現している。ただし一部の表現要素に生成AIを使用したケース。リードボーカルと主要楽器は人間が演奏していることが条件。

今回のラベルはサウンドレコーディング(録音)のみが対象。歌詞、楽曲(コンポジション)、ミュージックビデオ、カバーアートは現時点ではスコープ外とされている。実施は任意(voluntary)だが、デジタル音楽サービス・ディストリビューター・アグリゲーターとの連携を前提に設計されており、今後の義務化議論への足場にもなりうる。

なぜ今、なぜ重要か

背景には数字がある。Deezerが4月に公開したデータによると、同プラットフォームに新たにアップロードされる楽曲の44%がAI生成トラックだという。Apple Musicも「アップロードされるトラックの3分の1以上が100% AI」と述べている。

つまり問題はすでに「将来どうなるか」ではなく「今どう対処するか」の段階に入っている。

今回の発表でIFPI CEOのVikki OakleyとRIAA Chairman & CEOのMitch Glazierは連名で「ファンは、自分が聴く音楽に生成AIがどう使われているかを知りたいと思っている。世界中の音楽ファンにとって、人間のアーティスト性と真正性がいかに重要かを踏まえ、このラベルは即座に理解できる透明性のアプローチを提供する」と述べた。

論点——「任意」は機能するか

今回のプログラムが任意制であることは見逃せない。業界団体がいかに大きな連合を形成しても、Sunoのような直接消費者向けサービスが自主的にラベルを付けるかは不透明だ。

一方で、欧州AI法(EU AI Act)など規制側の動きが加速するなか、業界自主基準を先に確立しておくことには意味がある。「義務化される前に自分たちで決めた」という実績は、その後の立法議論における交渉力にもなる。

SAG-AFTRAのDuncan Crabtree-Irelandは「透明性は出発点に過ぎない。AIが同意も公正な報酬もなくアーティストを代替・模倣・搾取するために使われるべきではない」と述べており、ラベル表示はあくまで最初の一手であることを強調している。

グラミー賞CEOのHarvey Mason jr.は「AIはクリエイティブプロセスに統合され続けているが、アーティストと音楽ファンの双方が、いつ・どのように使われているかを明確に伝える方法を持つべき」とした。

今後どう展開するか

組織はデジタル音楽サービスやディストリビューター、標準化機関と連携して業界全体での実装を進めるとしている。具体的なサービス名やタイムラインはまだ示されていないが、Deezerなど透明性への意欲を見せているプラットフォームが先行採用する可能性がある。

また声明は「テクノロジーや要件の変化に合わせてラベルは進化させる」とも述べており、現在スコープ外の歌詞・コンポジション・映像への拡張も将来的には視野に入る。

作り手・聴き手への示唆

このラベルが広く採用された場合、AI生成楽曲を作っているクリエイターは、自分の作品がどう分類されるかを意識する必要が生じる。「AI支援」と分類されるためには「人間がリードボーカルと主要楽器を演奏した」ことが条件になる——この線引きは、作り方の選択に影響しうる。

聴き手にとっては、ストリーミング上での情報の見え方が変わる可能性がある。ただし「ラベルが付いているかどうか」より「ラベルを付ける仕組みが誰によって運用されるか」の方が、信頼性を左右する問いになるだろう。


ソース: IFPI公式発表(2026年7月10日)