オーストラリアのラジオ首位曲はAI生成か――Josh Fawazの「Like a Prayer」カバーが問うもの
クイーンズランドのDJ・Josh FawazによるMadonnaカバーがオーストラリアのラジオ全国1位を獲得。しかし音楽研究者や他のアーティストが「AIで作られた曲では」と疑念を呈した。Fawazは「ツールとして使った」と認めつつ否定もしておらず、AIラジオ開示規制が音楽に及ばない現在の抜け穴があらためて浮き彫りになっている。
何が起きたか
クイーンズランドを拠点とするDJ・プロデューサーのJosh Fawazが、Madonnaの1989年の楽曲「Like a Prayer」のカバーをリリースし、オーストラリアのNational Radio Airplay chart(全国54局の商業ラジオ局+triple j・FBi Radioのデータを集計)で1位を獲得した。SpotifyでのストリームはすでにS3500万回を超え、iTunesのElectronic部門でも世界首位に立った。18曲入りアルバム「Dance Like Nobody's Watching」はARIAオーストラリア作家アルバムチャートで18位に入っている。
問題は、この楽曲が本当にFawazによる演奏・制作なのかという点だ。
RMITのメディア・コミュニケーション学部シニア研究員Sam Whiting氏は、「Like a Prayer」に音楽生成AIであるSunoなどの特徴が見られると指摘する。「もし人間が歌ったならば非常に印象的なボーカルパフォーマンスだ。しかしそうでないなら、人間の表現において何を価値とするかについて本当に深刻な問いを突きつけてくる」とGuardianに語った。
DJのMitch Thomas(ステージ名:Needs No Sleep)は自身のSNSでFawazを批判。「ドラムがルーズ、ボーカルにアーティファクト、ストリーミングファイルの質が低い」と具体的な根拠を挙げた。「15年やってきたが、AIで作られた音楽はその作られ方に明らかな特徴がある」とも言う。
Fawaz本人はInstagramで批判への返答として「AIをツールとして使っている」と書いた。「AIが発明される前からリリースしてきた。大事なのはリスナーにいい音楽を届けること。そんなに深刻に考えなくていい」としているが、具体的にどのようにAIを使ったかは明らかにしていない。GuardianとABC Newsの取材に対しても返答がなかった。
楽曲クレジットにはFawazが「パフォーマー(ボーカル)」、叔父のFadi Fawaz(George Michaelの元パートナーとして知られる)がシンセとプロダクションを担当したと記載されている。
なぜこれが重要か
この話は単なる「一曲の疑惑」に留まらない。
ひとつは、検出の難しさだ。音楽研究者やプロのDJが「AIの特徴がある」と指摘しても、Fawazが否定し続ける限り、決定的な証拠はない。
ふたつめは、ラジオ開示規制の盲点だ。オーストラリアでは2026年7月1日、新しい商業ラジオの行動規範が施行された。内容はAI生成「ボイス」の使用を明示することを義務づけるものだ。しかしこの規制は音楽には適用されない。つまりAI生成の楽曲がラジオで1位になっても、局は何も開示する義務を負わない。
3つめはロイヤルティの問題だ。オーストラリアの著作権管理団体APRA AMCOSは、元の楽曲の著作権者であるMadonnaと共同作曲者Patrick R. Leonardには通常通り演奏ロイヤルティが支払われると説明した。楽曲(作曲・作詞)の著作権と録音の著作権は別物だからだ。録音そのものがAI生成であれば、その分の収入はFawaz側に入ることになる。
論点・異なる見方
批判側の中心にあるのは、AIで学習に使われた膨大な人間の音楽作品に対する補償なし・同意なしという問題だ。UNSW AI研究所のToby Walsh主任研究員は「怒りは当然だ。AIツールはアーティストの作品を盗んで学習している。そこに塩を塗り込まれる思いがする」と述べた。また、AIによるストリーム・ラジオ再生がロイヤルティを集めることで、生身のアーティストの取り分が圧迫されるという問題もある。
Fawaz側の主張は「ツールとして使っている」というものだ。ミュージシャンが長年にわたってDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)やピッチ補正などのツールを使ってきたのと同様、という論理だ。Ableton、Auto-Tune、サンプラーの登場にも毎回似たような批判があった。
問題の複雑さは、「AIをツールとして使う」の定義が人によってまったく異なることにある。AIでミックスやマスタリングを補助することと、テキストプロンプトだけで楽曲を生成することの間には、連続するグラデーションではなく、多くの人が「越えてはいけない線」と感じる断絶がある。しかしその線がどこにあるかは、まだ社会的に合意されていない。
オーストラリア国立大学のSamantha Bennett教授が指摘した皮肉も見逃せない。「Madonnaが新アルバム『Confessions II』の新曲群をリリースしたにもかかわらず、チャートの首位は40年前の曲のカバーだ。しかもそれが人間によるものかどうかも定かでない」。
今後どう展開しそうか
MEAAはオーストラリアの著作権法にAI学習に対する公正報酬(Equitable Remuneration)を導入することと、AI生成コンテンツへの義務的ウォーターマーキングを求めている。ただし立法化への道のりは長い。
ラジオ開示規制については、現行の「AI音声」にのみ適用する設計が音楽を免除している構造になっており、今回のような事例が重なれば規制の見直し議論が起きる可能性はある。
短期的には、こうした疑惑を持たれた楽曲のストリームがどうなるかも見どころだ。社会的炎上が必ずしも再生数の減少につながらないことは、過去の事例が示している。
作り手・聴き手への示唆
Fawazのケースは、「私はAIをツールとして使っている」という言葉が今後どれほど機能するかを試す事例になった。それ自体は嘘ではないかもしれないが、聴き手や同業者にとって必要な情報を提供しているとは言えない。
ラジオで流れる曲を選曲するプログラムディレクターも、今後は「どのように作られたか」をチェックするプロセスを求められるようになるかもしれない。AIウォーターマーキング技術がまだ標準化されていない現在、それは人間の耳と判断に委ねられている。
オーストラリアで起きたこの出来事は、どこでも起こりうる。ラジオのチャートを席巻している曲が、誰かのテキストプロンプトから生まれたものかもしれないというのは、もはや仮定の話ではなくなった。
Sources
- The Guardian: Is the most popular song played on Australian radio stations the product of generative AI? (2026-07-13)
- ABC News Australia: Australia's most played song on radio this week draws AI criticisms (2026-07-10)