「AI学習はフェアユース」——Googleの政策白書が音楽著作権の構図を問い直す
Googleが6月25日に公表した21ページの政策白書で「AI学習はフェアユース」と言い切り、著作権の監視対象をインプット(学習)からアウトプット(生成物)へ向けるよう提言した。RIAAや主要レーベルがAI企業を訴えているまさにその最中の政策表明は、業界の交渉戦略に真正面からぶつかる。
Googleが動いた。AI学習をめぐる著作権論争に、世界最大のテック企業が正面から自社の立場を表明した。
6月25日、Googleのグローバルアフェアーズ担当プレジデントであるKent Walkerが、21ページの政策白書「A Pragmatic Approach to AI Governance in America(米国におけるAIガバナンスへの現実的アプローチ)」を公表した。
何が起きたか
白書の主張は明確だ。
「公開ウェブデータをモデル学習に使用することは、変容的かつ非表現的な使用であり——アート学生がギャラリーを歩き回りながらインスピレーションを得るようなもの——米国のフェアユース原則のもとで保護されるべきだ」
Googleは学習段階を規制の対象とすることに反対し、著作権監視の焦点をアウトプット——AIが生成した音楽や映像が既存作品を模倣しているかどうか——に絞るべきだと提言している。現行の通知・削除(notice-and-takedown)システムで対応可能だとし、自動類似フィルターの導入にも否定的な立場をとった。
一方、開発者がウェブサイト運営者によるコンテンツ利用制限("Google-Extended"などの機械可読タグ)を尊重すべきだとも認めており、完全な無制限を主張しているわけではない。「権利者との新たなパートナーシップと価値交換モデルを模索する」という表現も盛り込まれている。
なぜこれが重要か
タイミングが全てを物語っている。
現在、RIAAとUniversal Music、Sony Music、Warner Musicは複数のAI企業に対して訴訟を起こしており、その中心的な論点は「学習段階での著作権侵害」だ。音楽業界は「AIモデルを訓練するにあたって楽曲を使用するなら、事前に許諾を得て対価を支払うべきだ」という立場で一致している。
Googleの白書はその主張に真向から反論した。「学習自体はフェアユースであり問題ない、問題があるとすればアウトプットだ」という論理は、業界が積み上げてきた訴訟の前提を崩しにかかるものだ。
Googleは自社のAI音楽モデル「Lyria」をYouTubeに統合しており、この問題の当事者でもある。今年6月には、YouTubeへのアップロード行為がGoogle利用規約上の学習許諾になるという主張を別の訴訟で展開したばかりだ(参考:2026年6月10日付記事)。今回の白書は、その個別訴訟戦略をより大きな政策論に昇華させたものとも読める。
論点と異なる見方
「インプットではなくアウトプットを規制せよ」という主張は、一見合理的に見える。実際に被害が発生するのはアウトプットの段階だ、という論理は理解しやすい。
ただし音楽業界の見方は異なる。学習に大量の楽曲が使用された事実は変わらないのに、その対価を「アウトプット段階で何か起きたら」という条件付きにしてしまうことへの不満は根強い。学習データとして楽曲が使われた時点ですでに何らかの価値の移転が起きている——という感覚は、法的な正否とは別に多くの権利者が持っている。
一方、NMPAがUdioとの業界横断ライセンス合意を結んだように(2026年6月)、交渉によって折り合いをつける動きも出てきている。Googleが白書で触れた「パートナーシップと価値交換」が具体的にどんな形になるかは未知数だが、交渉の余地がゼロではないことも示唆している。
Googleの立場を一概に「業界への敵対宣言」と読むのは単純化しすぎかもしれない。むしろ「学習は守る、でもアウトプットでは協力できる」という交渉の出発点として機能する可能性もある。
今後どう展開しそうか
白書は政策提言であり、法的な拘束力を持つものではない。ただ、Googleほどの政治的影響力を持つ企業が正式な文書でこの立場を打ち出したことは、米国議会での議論や係争中の訴訟における論調に影響を与え得る。
AI規制をめぐる米国の立法議論は今年も継続中だ。他のビッグテック各社がGoogleの白書に追随するかどうか、または独自の立場を取るかどうかも注目点になる。
音楽業界の訴訟が「学習段階でのフェアユース」について裁判所がどう判断するかは、まだ出ていない。Google白書はこの問いに対する強力なロビー活動の一環として機能することになる。
作り手・聴き手への示唆
Googleの「アウトプット規制」論が通れば、AI音楽を使ってコンテンツを作ることへの法的リスクは下がる方向に向かう。少なくとも学習データ問題が「作った人の責任」として降りかかってくる可能性は、この論理が通用する限りは低い。
ただし、業界との交渉がどう決着するかはまだ見えない。ライセンス合意、訴訟の判決、そして議会の動き——この3つが絡み合いながら今後1〜2年で地形が変わる可能性がある。
今できることは、自分が使っているツールがどういう立場にあるか(ライセンス合意あり/なし、訴訟中/解決済み)を把握しておくこと。制作の選択肢はそれによって変わってくる。
ソース
- Google: "Read our white paper on a pragmatic approach to AI governance in America." (2026-06-25): https://blog.google/company-news/outreach-and-initiatives/public-policy/white-paper-ai-regulation/
- Music Business Worldwide: "Google says AI training is fair use and copyright should be policed on outputs, not inputs" (2026-06-29): https://www.musicbusinessworldwide.com/google-says-ai-training-is-fair-use-and-copyright-should-be-policed-on-outputs-not-inputs/