AIバンドの曲を人間が演奏する──「The Bootleg Velvet Sundown」が問う、本物の意味
AIバンド「Velvet Sundown」のトリビュートバンドを人間ミュージシャンが結成。利益はリアルなアーティストへ還元──という逆説的なプロジェクトが、音楽における「本物」の問いを鋭く照らし出す。
2026年7月、TVライター・プロデューサーのSimon Balchが「The Bootleg Velvet Sundown」というバンドを結成した。メンバーはLeo Walrus、Enzo Allen、Milo Garland、Luke McQueen。彼らが目指すのは、世界で最も有名なAI生成バンド「Velvet Sundown」の楽曲を人間の手で再録音し、そのストリーミング再生数をオリジナルのAI版を超えることだ。得られた利益はすべて、実在するミュージシャンたちへ還元するという。
Velvet Sundownとは何者だったか
Velvet Sundownは2025年に突如Spotifyに現れ、100万回以上の再生を記録したAI生成バンドだ。実在しないはずのメンバー写真、架空のバイオグラフィー、そしてそれなりに聴けるサウンド──露見するまで、多くのリスナーは人間のバンドだと信じていた。発覚後、バンド側は「これは一種の挑発だ」と公式に認めたが、AI音楽のラベリング問題を業界に突きつける格好になった。一部のAI音楽アワードはVelvet Sundownの参加を禁じ、ガーディアン紙は「聴衆に対する警告が必要だ」と論じた。
逆説的な抵抗の形
Balchの発想は一種の逆張りだ。「AIが有名になったなら、そのトリビュートバンドを人間が作ればいい。でも本当の意味でのトリビュートはしない」というわけだ。
彼はロンドンの屋上から宣言している。「AIにできないことが一つある。ライブだ。今日まではね」。そして「AIで音楽を作っているなら、用心することだ」とも。
利益の使い道が興味深い。「AIに盗まれたリアルなミュージシャンたちに、利益を全額還元する」とBalchは語る。これはAI学習データをめぐる業界の議論──Sunoなどへの著作権訴訟が継続中──と地続きの問題提起でもある。
どう読むか
この動きを単純に「AI対人間」として読むのは正確ではないと思う。Balchがやろうとしていることは、AI音楽が生み出した「文化的な磁場」を逆利用することだ。Velvet Sundownは偽物だったかもしれないが、楽曲への関心は本物だった。その関心を人間の演奏へと向け直し、利益を本来の作り手へ回す──という構造は、批判と同時に一種の実用的な解法でもある。
一方で懐疑的な見方もある。そもそもVelvet Sundownの楽曲は誰が「作った」のか。AI生成曲を人間が演奏し直すことは、著作権上どう扱われるのか。「本物」の演奏が得た再生数は、AI音楽批判の文脈で語られるべきか、それとも単なる話題性の消費なのか。答えは出ていない。
何が起きるか
The Bootleg Velvet Sundownがオリジナルの再生数を超えられるかどうかはわからない。ただ、このプロジェクトが「AIバンドの曲を人間が演奏する」という状況を生んだ事実は、どこかで笑えて、どこかで本質をついている。聴き手が作り手になる時代に、今度は「演奏家がAIの後を追う」という逆転が起きようとしている。
Source: MusicRadar, July 8, 2026 / Guitar World, July 6, 2026