「AIはゴミだった、何も助けにならなかった」——ミック・ジャガーの言葉と、その裏側
ローリング・ストーンズの新作を前に、ジャガーはLLMにアルバムタイトルの候補を出させた。結果は「ゴミ」だったと彼は言う。しかし彼自身がそこに別の価値を見出しており、同じバンドが同じ時期にAI映像技術を採用している事実と重ね合わせると、話は単純ではなくなる。
「ゴミしか出てこなかった。何も助けにならなかった」
ミック・ジャガーはタイムズ紙のインタビューでそう述べた。ローリング・ストーンズの第25作目となる新作『Foreign Tongues』(2026年7月10日発売)のプロモーション期間中の発言だ。
何が起きたか
ジャガーが語ったのは、2023年のアルバム『Hackney Diamonds』を制作していた際の話だ。バンド内でタイトルが決まらず、彼は大規模言語モデルに候補を投げてみた。12案ほど出したが、AIが返してきた提案はどれも採用されなかった。
「誰も合意できなくて、AIにタイトルを全部渡したら、ゴミしか返ってこなかった。まったく役に立たなかった」
ただしジャガーは、その体験を完全に否定しているわけではない。彼はこうも続けた。
「気持ちの詰まりをほぐしてくれることはある。『OK、これはゴミだ』とか、『自分のアイデアのほうがはるかにいい』って思えるから」
なぜこれが重要か
ベテランアーティストがAIを批判するコメントは珍しくない。だが今回の発言が面白いのは、「役に立たない」と「役に立つ」が同時に語られている点だ。
ジャガーの説明によれば、AIの出力物はアイデアとして採用できないほど質が低かった。それでも彼はその低品質な出力を「自分の感覚が正しい」という確証を得るための比較対象として使っている。ゴミとして有用だった、ということになる。
さらに注目すべき事実がある。ローリング・ストーンズは新作に収録された「In the Stars」のミュージックビデオで、AI技術を使ってメンバーを数十年若返らせた映像を採用している。技術を手がけたのは『サウスパーク』のトレイ・パーカーとマット・ストーンだ。
つまり、AIのアイデアは「ゴミ」だったが、AIの映像技術は採用した。
論点・異なる見方
ジャガーの立場を「AI批判」として単純に読むのは難しい。彼は技術そのものを否定しているのではなく、「AIをクリエイティブな相棒として使う」という発想を退けている。一方で生産ツールとしてのAIは実際に使っている。
キース・リチャーズはもう少し大きな場所で語っていた。「音楽の未来を恐れているか? あらゆるものの未来を恐れているよ」。彼の言葉は音楽に限定されておらず、世代的な怯えのように聞こえる。
AI音楽シーンから見ると、ジャガーのコメントは「AIは創造的な主体にはなれない」という命題の証拠として引用されやすい。一方、AI推進側からは「アーティスト自身がAI技術を制作に組み込んでいる」という事実を強調するだろう。どちらも正確だ。
今後どう展開しそうか
この構図——「創造的インプットとしてのAI」への拒否と「生産ツールとしてのAI」への受容——は、ジャガーだけの話ではない。多くのアーティストが同様のダブルスタンダードを生きている。意識的なものもあれば、無自覚なものもある。
問題はどこで線を引くかだ。AIがタイトル候補を出すのはNGで、映像でメンバーを若返らせるのはOKなのか。この線は人によって、ツールによって、使い方によって大きく異なる。業界全体でその議論がまだ整理されていない以上、今後も似たような「矛盾」を抱えたコメントは出続けるだろう。
作り手・聴き手への示唆
ジャガーの「ゴミ論」には、実は使えるヒントが隠れている。AIの出力を「採用するかどうか」ではなく、「自分の感覚を測る基準として使う」という視点だ。
AIのアウトプットに失望することを、創造的な行き詰まりを打開するきっかけとして意図的に使うアーティストは、実際にいる。ジャガーは無意識にそれをやっていた。「役に立たなかった」という評価と「気持ちの詰まりをほぐしてくれた」という評価が矛盾しないのは、そういうことだ。
ツールをどう使うかを決めるのは、結局まだ人間の側だ——少なくとも今のところは。
参照:
- "Rubbish, it didn't help at all": Mick Jagger's no fan of AI — Salon(2026年7月5日)