7月15日、TIDALのAI音楽ポリシーが正式に施行される。完全にAIによって生成された楽曲はロイヤリティを得られなくなり、アプリ上には「AI」バッジが表示される。だがこの方針を採用しているのは、現時点でTIDALだけだ。

Spotify、Deezer、Apple Musicはそれぞれ異なるアプローチを取っており、業界横断の統一ルールはまだ存在しない。この「分岐」は、各社が「AI音楽」という問いに対して根本的に異なる答えを出していることを意味する。

各プラットフォームの現在地

TIDAL(最も強硬): 7月15日から、完全AI生成のトラックはロイヤリティ対象外となる。ダイレクト・トゥ・ファン収益も停止。配信会社にはアップロード前に楽曲のAI生成状況を申告する義務が生じる。なりすましや詐欺に関わるAI楽曲は削除対象。TIDALのEVP、Tony Gervinoは「多くのアーティストから、AIだけで作った音楽にリスナーを誘導したくないという声を聞いている」と述べている。

Deezer(早期から積極対応): 2025年初頭にAI検出ツールを導入した先駆者。2026年4月時点で、1日あたり約7万5,000曲の完全AI生成楽曲を受信しており、これは新規アップロードの44%に相当する。Deezerはこれらをアルゴリズム推薦とエディトリアルプレイリストから除外しているが、リスニング自体は可能のまま。AI楽曲の85%はすでに不正トラフィックとして収益停止処理されているという。Deezer CEOのAlexis Lanternierは「AI音楽はもはや周辺的な現象ではない」と述べ、同社の検出技術を他社にライセンスで提供する意向を示している。

Spotify(スパム・なりすまし中心): 「完全AI生成」を一律に規制するのではなく、有害なAI活用——音声クローンによるなりすまし、スパム行為、欺瞞的アップロード——をターゲットにしている。過去12ヶ月でスパムトラックを7,500万曲以上削除。新たな「なりすまし防止ポリシー」を導入し、アーティストの承認なきボイスクローン楽曲の配信を原則禁止とした。AIの使用についてはアーティストが判断する「クリエイティブな選択」と位置づけており、完全AI生成であっても不正でなければ排除しない姿勢だ。

Apple Music(メタデータによる透明性確保): 2026年4月の仕様更新で、配信会社がAI生成要素を申告できるメタデータフィールドを追加。ミュージックビデオ・シングル向けの「AIトランスペアレンシータグ」も導入した。現時点では収益停止や推薦除外といった積極的な規制措置は採っておらず、透明性の確保にとどまっている。

なぜここまで対応が割れるのか

プラットフォームごとのアプローチの差は、単なる技術的な問題ではなく、ビジネス哲学の違いを反映している。

TIDALは長年「アーティスト・オーナード」のポジションを標榜してきた。その文脈で「完全AI生成楽曲への収益停止」は、ブランドの一貫性として成立する。ただしTIDALの市場シェアはSpotifyやApple Musicと比べて小さく、より強硬な姿勢を取りやすい面もある。

Spotifyは月間アクティブユーザー6億人を超える巨大プラットフォームだ。「完全AI生成を一律排除」すれば、AI音楽ツールを使う何百万ものクリエイターを締め出すリスクがある。Spotifyが「スパムと不正対策」に限定しているのは、規模の大きさゆえの現実的判断でもある。

Deezerが「いち早く透明化し、他社に検出技術を売る」戦略を取っているのも興味深い。業界スタンダード形成に先手を打つことで、自社の検出ビジネスを有利に展開しようとしている。

何が問題として残るか

4社の対応が割れていることで、いくつかの構造的な問題が生じている。

定義の不統一: 「完全AI生成」の線引きは各社バラバラだ。どこまでAIを使えば「完全AI生成」になるのか、明確な業界基準はない。AIを部分的に使うハイブリッドな制作者は、どのプラットフォームでどう分類されるか予測しにくい。

検出技術の精度問題: Deezerは「Sunoで生成されたトラックを高精度で検出できる」と述べているが、完全なカバレッジには至っていない。誤検知や検出漏れは、不当に不利益を被るクリエイターを生む可能性がある。

リスナーへの影響: Deezerが調べた研究によると、97%の人が「AIと人間の音楽の違いを聴いて判断できない」と答えている。ラベルや制限がリスナーの意思決定を助けるのか、それとも偏見を生むのかはまだ分からない。

今後の展開

TIDALが7月15日に施行を迎えることで、「完全AI生成楽曲の収益停止」が実際に機能するかどうかが問われる。配信代理店が申告義務を果たさなかった場合の対処、誤検知への対応、クリエイターとの摩擦——これらが実際にどう動くかを、業界全体が注目している。

Deezerはすでに他社への技術提供を始めている。SpotifyやApple Musicがより積極的なAI規制に踏み込むかどうかは、TIDALの施行結果次第で変わってくるかもしれない。当面は各社の対応を個別に追いかけることが、AI音楽の動向を理解する上で欠かせない。

作り手にとっての現実は、使っているツールと配信先によって「あなたの音楽がどう扱われるか」が変わる、というものだ。統一ルールのない過渡期に、それを前提として動くしかない。