3万曲追加申請、却下——ソニーのUdio訴訟拡大戦略に連邦判事が待った
ニューヨーク連邦地裁がソニーミュージックによるUdio訴訟への3万442曲追加申請を却下。訴訟は当初の333曲の範囲に留まることになった。大手3社がすでに和解・ライセンス締結に動いた中、ソニーだけが訴訟を継続するという構図が鮮明になっている。
2026年7月2日、ニューヨーク連邦地裁のAlvin K. Hellerstein判事が、ソニーミュージックエンタテインメントによる申請を却下した。ソニーはAI音楽プラットフォームUdioとの著作権侵害訴訟に、新たに3万442曲の録音を追加しようとしていた。
何が起きたか
訴訟はもともと2024年6月、RIAA(全米レコード協会)がSunoとUdioに対して「著作権の大規模侵害」を主張して提訴したことに始まる。
その後UMGが2025年10月、WMGが2025年11月にそれぞれUdioと和解・ライセンス契約を結んだ。独立系レーベルの集合体Merlinが2026年1月、音楽出版社のKobaltが4月に続いた。さらに6月には、全米音楽出版協会(NMPA)がUdioとの「業界史上初の包括的ライセンス契約」を発表している。
ソニーだけが残った。
今年5月22日、ソニーはディスカバリー(証拠開示)手続きでUdioの学習データにアクセスした結果、追加の著作権侵害音源を特定したとして、訴訟の対象を333曲から3万442曲へと大幅に拡大する申請を行っていた。
Hellerstein判事はこれを却下した。理由は明快だ。「ディスカバリーの終盤に3万曲超の作品を追加することは、大幅な追加の制作・レビューが必要となり、さらなる争いを生み、私の前にあるケースの範囲を実質的に変えることになる」。
なぜこれが重要か
数字の問題として見ると、この申請却下の意味は大きい。米著作権法では故意侵害に対して1作品あたり最大15万ドルの法定賠償が認められる。3万442曲であれば、理論上の最大賠償額は約45億ドル(約6,500億円)に達する計算だった。333曲に留まれば、最大賠償額は約4,990万ドルとなる。
申請却下はソニーの損害賠償戦略に対する直接のブレーキだ。
より広い文脈で見ると、この判決はAI音楽を巡る法廷戦の現在地を映している。かつて業界の「結束した訴訟」として始まったこの争いは、いつの間にかソニー対Udiosという一対一の構図に変わっていた。
論点
NMPAのCEOであるDavid Israeliteは、6月の包括ライセンス契約発表の際にこう述べた。「悪いAIアクターには訴訟を、良いAIパートナーにはライセンスを——この2つは矛盾しない」。
この言い方は巧みだ。訴訟と和解の両立を「哲学的な整合性」として提示することで、大手各社の個別判断を正当化している。ただし「Udiosが良いパートナーになった」という評価は、訴訟を継続しているソニーとは明らかにズレがある。
ソニーが強硬姿勢を続けているのは単なる企業戦略の違いだけではないかもしれない。同社はAI学習データの権利処理において「許可なしの利用はない」という立場を一貫して取ってきた。その原則を守るためには、仮に他社が和解路線へ動いても、法廷で結論を出す必要があると判断している可能性がある。
一方で、ソニー以外の全主要プレイヤーがUdioと合意した現状は、同社を孤立した立場に見せている。訴訟継続が「業界を代表した正しい戦い」なのか、「ひとつの企業の戦略的選択」なのかは、結論が出るまで分からない。
今後どう展開しそうか
333曲でのソニーとUdio間の訴訟は続く。Hellerstein判事のもとで裁判は進む。ソニーが追加申請を諦めるかどうか、あるいは別の形で範囲を広げようとするかも注目点だ。
Udiosにとっては一定の時間を稼いだ格好だが、訴訟が終わったわけでもない。唯一の大手レーベル相手に係争を抱えたまま、NMPAディールを軸にさらなるライセンス拡大を目指すというのが、当面のUdioの立ち位置になる。
AI音楽プラットフォームの「合法化」が少しずつ形になってきている——そう言いたいところだが、ソニーが最後の大きな不確定要素として残っている以上、話はまだ途中だ。
ソース: Judge denies Sony Music bid to add over 30,000 recordings to Udio lawsuit — Music Business Worldwide