TIDALが6月29日、完全にAIによって生成された楽曲をロイヤリティの対象から除外すると発表した。同日付で有効となるこの方針は、ストリーミング大手が「AI音楽を受け入れる」でも「放置する」でもなく、明示的に「収益から切り離す」という立場を取った点で注目に値する。

何が変わるのか

方針の骨格は3点だ。

即時:ロイヤリティ停止。 完全にAI生成された楽曲は、今後一切ロイヤリティを得られない。ダイレクト・トゥ・ファンの売上も対象外となる。TIDALは配信会社に対し、AI楽曲を「プラットフォームに届く前に識別する」責任を求めている。

7月15日:AIバッジ表示。 リスナー向けに、完全AI生成のトラックには「AI」ラベルが付与される。将来的には「大部分がAI生成」のコンテンツにも拡張予定だという。

随時:削除対象の明確化。 アーティストの声を模倣し、リスナーを欺く目的で使われるAI楽曲、詐欺行為に紐付いたコンテンツは削除の対象となる。

なぜこれが重要か

TIDALのエグゼクティブ、Tony Gervinoは「私たちの受信箱は、既存アーティストを模倣して金銭的利益を得ようとする音楽で溢れかえっている」と述べている。

より構造的な背景として、Deezerが公開した数字がある——同社は現在、1日あたり7万5000曲の完全AI生成楽曲を受け取っており、これは新規アップロード全体の44%に相当する。Qobuz、Apple Musicも独自の検出システムを導入済みだが、実際の運用は各社で異なる。

問題は技術的な話ではない。プラットフォームが「何を音楽として扱うか」という定義に踏み込んだということだ。今回TIDALが取った立場は、AI音楽の存在を否定するのではなく、「ロイヤリティ経済の外に置く」という選択だ。

論点と異なる見方

この方針に対して、複数の視点がある。

支持する立場からは: 既存ミュージシャンを守るためのやむを得ない措置、という見方が強い。完全AI生成の楽曲が大量にアップロードされることで、ロイヤリティのプールが希薄化し、人間アーティストへの還元が下がるという問題は以前から指摘されていた。

懸念する立場からは: 誰が「完全AI生成」と判定するのか、という問いが残る。検出技術の精度が不完全な場合、ハイブリッドな制作手法——DAWと生成AIを組み合わせて作る現代的なワークフロー——を使うアーティストが誤判定のリスクを負う可能性がある。

AI音楽クリエイター側からは: ロイヤリティ収益を目的にしていないユーザーには直接の影響は少ないが、「AI音楽は価値がない」というシグナルとして受け取られることへの懸念はあるだろう。

今後どう展開しそうか

業界全体がTIDALの動向を見ている。SpotifyやApple Musicが同様の方針を採用するかどうかは、まだ見えない。ただし、流れとしてはAI検出とラベリングの「業界標準化」に向かっている。RTM AudioやDeezerが開発する検出ツールが精度を上げれば、プラットフォーム横断的なAI音楽の取り扱いルールが形成されていく可能性はある。

一方で、「完全AI生成」の定義は技術的にも法的にも曖昧なままだ。判定基準が不透明なまま実施されれば、クリエイターとの摩擦は不可避だろう。

作り手・聴き手への示唆

AI音楽ツールを使って音楽を作っている人にとって、今回の方針は「収益化を目指すなら自分のプロセスを明確にしておく必要がある」というシグナルだ。AIはツールとして使いながら、人間の選択・編集・意図が確認できる形で制作物を残すことが、今後のプラットフォームとの関係において重要になっていく。

聴き手にとっては、「AIバッジ」が付いた楽曲をどう受け取るか、という問いが生まれる。ラベルが偏見を生むか、あるいは透明性として機能するか——それはプラットフォームの設計次第であり、リスナーの意識次第でもある。