米メディア『The Atlantic』が今月公開した調査記事と、それに付随するデータセット検索ツールが、音楽業界に波紋を広げている。

何が起きたか

The Atlanticの調査により、AI開発コミュニティ内で共有されている音楽学習データセットの実態が明らかになった。確認された主なデータセットは以下の2つだ。

  • Sleeping-DISCO-9M(研究グループ "Sleeping AI" が構築): YouTubeから取得した970万曲とGenius.comの歌詞データ
  • LAION-DISCO-12M(ドイツ拠点のLAIONが構築): YouTubeから取得した1,230万曲

The Atlanticはこれらを検索できるツールを公開した。オーストラリアのアーティストがそのツールを使って調べたところ、Nick Cave、Kylie Minogue、Powderfinger、Jimmy Barnes、Something For Kate(Paul Dempsey)、Bernard Fanning、Darren Hayes(Savage Garden)らの楽曲が収録されていることが確認された。

オーストラリア・ニュージーランドで12万8千人のメンバーを持つ音楽著作権団体APRA AMCOSは声明を発表。CEOのDean Ormston氏は「大手テックプラットフォームはただの一度もテーブルに来ていない。代わりに政府へのロビー活動を行い、支払い義務を消し去る政策を推進し続けている」と批判した。

アーティストたちの反応

Something For KateのPaul Dempseyは、バンドのカタログ全体と自身のソロ作品がデータセットに含まれていることを確認。「これまでキャリアを通じてレーベルや各種事業者と交渉してきた契約や合意が、すべて無意味になってしまった。アーティストが公正な条件を交渉できる力が根こそぎ奪われている」とコメントした。

Bernard Fanningは音楽の本質的な意義に触れながら反論する。「私たちは感情を人間化するためにアートを作る。ロボットは生きていない。経験しない。ただ集約するだけだ」

Savage Gardenのメンバーとして「Truly Madly Deeply」などの楽曲で知られるDarren Hayesは、30年分の音楽活動の成果物がデータセットに含まれていることをInstagramで公表。「血と汗と涙をかけて作ったすべての音楽が盗まれ、クソみたいな音楽を吐き出すソフトウェアへのフライドポテトとして提供されている」と強い言葉で怒りを表明した。

法的背景と今後

The AtlanticはAI企業が実際にこれらのデータセットでモデルをトレーニングした確証はないとしている。ただし、こうしたデータセットが広く流通していること自体が問題の規模を示している。

オーストラリアでは2025年8月、Productivity Commissionがテキスト・データマイニングの著作権例外を設ける案を提案したが、同年10月に連邦政府が却下。現行の知的財産法では、著作物の使用には事前の許諾と条件合意が必要とされている。

今回の調査が可視化したのは、「使われているかもしれない」という曖昧な問題から、「実際に大規模に流通しているデータセットが存在する」という具体的な現実への移行だ。音楽業界が法的手段でAI企業と争う流れは続いているが、学習データをめぐる透明性と同意の問題は依然として未解決のまま残されている。


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