タバコ産業から2,600億ドルを勝ち取った法律事務所が、Suno・Udio訴訟に参戦した
AI音楽生成サービスSunoとUdioに対するインディーアーティストの著作権訴訟に、Hagens Bermanが加わった。タバコ産業との戦いで約2,600億ドルの和解を勝ち取ったことで知られる大手法律事務所の参戦は、訴訟の重みを一段と引き上げる。
AI音楽生成をめぐる著作権訴訟に、これまでとは異なる重さが加わった。
6月22日、米大手法律事務所Hagens Bermanが、SunoとUdioを相手取ったインディーアーティストの集団訴訟に参加すると発表した。同日、ニューヨーク南部地区連邦裁判所に対してUdioへの修正訴状を提出している。
何が起きたか
Hagens Bermanが加わったのは、カントリーミュージシャンのTony Justiceと彼のレーベル5th Wheel Recordsが2025年6月に起こした訴訟だ。JusticeはSpotifyなどで800万回以上ストリームされた楽曲「Last of the Cowboys」で知られるトラック運転手で、SunoとUdioがインディーアーティストの楽曲を無断でAI学習に使用したと主張してきた。
Hagens BermanはDelgado Entertainment Lawと連携し、2021年以降に楽曲をストリーミングサービスでリリースしたインディーアーティストを原告として加えた形で訴訟を拡充した。
訴状で焦点となっているのは「ストリームリッピング」と呼ばれる手法だ。SunoとUdioがYouTubeやSpotifyといったプラットフォームの技術的保護措置を回避し、数千万曲に及ぶ楽曲を無断でダウンロード・学習に使用したと主張している。Suno側は「ストリームリッピング自体はDMCA(デジタルミレニアム著作権法)違反にはあたらない」との主張を展開しているが、レーベル側は「違反は転用にあるのではなく、回避行為にある」と反論しており、法廷での攻防が続いている。
5月21日には、Udio訴訟を審理する連邦裁がUdioの棄却申立てを一部退け、DMCA違反に基づく請求を維持することを決定した。Suno訴訟の棄却申立てに対する判断はまだ出ていない。
Hagens Bermanとはどういう事務所か
Hagens Bermanを語るうえで外せないのが、タバコ産業との闘いだ。同事務所は米国13州を代理し、フィリップ・モリスらタバコ業界に対して行った訴訟で約2,600億ドル(約40兆円)の和解を勝ち取った。これは同事務所が「訴訟史上最大の回収」と位置づける成果だ。共同創業者のSteve Bermanはその際、ワシントン州などの副検事総長も務めている。
Bermanは今回の参加にあたり次のように述べている。「インディーアーティストやプロデューサーは音楽産業の核心であり、AIの時代において最も失うものが多い存在だ。UdioとSunoは何百万ものインディーアーティストの作品を露骨に盗み、オンラインプラットフォームの利用規約に違反した、と私たちは確信している」
なぜこれが重要か
AI音楽著作権訴訟はこれまで、レコード会社や音楽出版社のような組織が当事者になることが多かった。今回の訴訟はインディーアーティスト個人が原告であり続けている点で異なる構造を持っている。SunoとUdioを支えるVC資本に対して、個人の権利者が戦えるかという問いが最初からあった。
Hagens Bermanの参戦は、そのバランスを大きく変える可能性がある。大企業との訴訟に長けた事務所が、財力で劣るインディーアーティスト側を代理することで、訴訟の継続性と射程が変わる。タバコ産業との戦いで見せたのは、10年以上をかけて大企業を追い詰める持久力だった。
もう一つの変化は、訴訟の標的の多様化だ。メジャーレーベルとの訴訟(著作権侵害)、インディーアーティストとの訴訟(DMCA・不当競争)、そして研究データセットの転用をめぐる訴訟(Nvidia・Jamendo)が並行して進んでいる。AI音楽生成企業が直面する法的リスクは、複数の角度から同時に積み上がっている。
論点・異なる見方
SunoやUdioにとって、この訴訟が厄介な点の一つは「インディーアーティストを傷つけている」という構図にある。両社はこれまで「AIはアーティストの創造性を拡張する」という立場を取ってきた。Sunoは同じ週に、インディーアーティスト向けインキュベータープログラム「Spark」を発表している(ただし、参加者が同社を「ネガティブな形で描写することを永続的に禁じる」条項が問題視されており、これはすでに別の文脈で議論を呼んでいる)。
一方で、Hagens Bermanが参加したことで訴訟がより有名になること自体、SunoやUdioにとってレピュテーションリスクになりうる。法廷での争いは長期化するとしても、「タバコ企業と同様の構図で訴えられている」という印象は外部に積み重なっていく。
今後どう展開しそうか
直近では、Suno訴訟に対する棄却申立ての判断がいずれ出る。Udio訴訟でDMCA請求が生き残ったことは、Suno側にとっても不利な先例になりうる。
中期的には、ストリームリッピングの合法性に関する法的解釈が確定する可能性がある。Suno側が「回避ではなく転用が問題」という主張を崩せなければ、AI学習のための音楽収集に使える手段は大幅に狭まる。
Hagens Bermanが最終的にどれだけの損害賠償を求めるか、あるいは和解を目指すかはまだ見えない。タバコ訴訟は最終的に和解で終わった。AI音楽訴訟がどこに着地するかは、業界全体のライセンス慣行を形作る可能性がある。
ソース
- Music Business Worldwide: "Suno's latest legal opponent fought the tobacco industry – and won a quarter of a trillion dollars" (2026-06-22): https://www.musicbusinessworldwide.com/sunos-latest-legal-opponent-fought-the-tobacco-industry-and-won-a-quarter-of-a-trillion-dollars/