6月25日、Sunoはインディーズアーティストにグラントとサポートを提供するインキュベータープログラム「Spark」を発表した。表向きは「独立系アーティストの支援」だが、参加規約のある一文が業界に波紋を広げている。


何が起きたか

SunoのChief Music Officer Paul Sinclairらが6月25日に公開したブログポストで、「Spark」プログラムが正式にスタートした。対象は18歳以上の未署名の独立系アーティストで、以下の支援が提供される。

  • 数千ドルから数万ドル規模のグラント(金額はケースバイケース)
  • マーケティング資金と既存アーティストとのコラボ機会
  • Suno Premierアクセスと楽曲クレジット
  • 専任のパートナーマネージャーによるサポート
  • 新機能への早期アクセスとエディトリアル掲載枠

一見すると、インディーズシーンへの本格的な投資に見える。しかし参加規約には、このプログラムの性質を問い直す条項が含まれていた。


「Good Vibes Only」条項の中身

物議を醸したのは、規約中に「Good Vibes Only」と題された反中傷(non-disparagement)条項だ。

参加アーティストは、プログラム「期間中およびその後」において——

"will not at any time make any statements or representations, either directly or indirectly, whether orally or in writing, that portrays Suno, Suno personnel, and/or any Suno products or services in a negative light."

(Suno、Sunoの従業員、またはSunoの製品・サービスをネガティブに描写するいかなる発言や表明も、直接・間接を問わず、口頭・書面を問わず、行わない)

違反は「重大な違反および終了の根拠」とされる。

さらに、Sunoはプログラム参加者のコンテンツ、名前、肖像を「期間中およびその後」、マーケティングや宣伝目的で使用する権利を得る。プログラムが終わってもこの権利は消えない。

加えて、Sunoの標準利用規約への同意も必要とされており、そこには「紛争は中立の仲裁人が決定する」という仲裁条項——つまり集団訴訟への参加を事実上不可能にする条項——が含まれている。


なぜこれが重要か

タイミングが全てを語る。

SunoはUniversal Music GroupとSony Music Entertainmentから著作権侵害訴訟を受けている最中だ。SZAは「自分の楽曲がAIの学習に使われている」と公然と批判し、Doja CatはAI音楽に対して「Fuck AI for real」と発言した。批判の声が高まっているこの時期に、Sunoはインディーズアーティストに「批判しないことへの同意」をグラントの条件として提示した。

これは何を意味するか。

Sparkは単なる支援プログラムではなく、Sunoの「アーティストとの関係性」を再構築するための戦略的な動きとも読める。著作権侵害という批判に対して、「私たちはアーティストを支持している」という物語を作り上げる素材として機能する。参加アーティストはその物語の一部となると同時に、Sunoを批判する権利を永続的に手放すことになる。

名前と肖像の使用権がプログラム終了後も継続することも見逃せない。グラントを受け取ったアーティストが後にSunoに批判的になっても、Sunoは「そのアーティストがSparkに参加した」という事実をマーケティングに使い続けられる。


論点と異なる見方

支持する側の論理も理解できる。「批判禁止」とは言えど、Sunoが現実にグラントを支払い、インディーズアーティストのキャリアに投資しているのは事実だ。メジャーレーベルとの契約も、似たような言葉での縛りを含むことは珍しくない。支援と引き換えに何かを制約されることは、ビジネスの世界では日常だという見方もある。

ただし、その制約の内容が問題だ。Sunoの場合、制約されるのは「批判する権利」であり、「Sunoがアーティストの音楽をどのように扱うか」を公に問い直す声そのものだ。著作権をめぐる議論が進行中のこの状況下で、それを永続的に封じることの重みは小さくない。

また、「数千ドルから数万ドル」という幅の広い金額設定も曖昧だ。いくら受け取れるのか、何を基準に決まるのかはSparkのページには明記されていない。


今後どう展開しそうか

Sparkが実際にどれだけのアーティストを採択し、どのような成果を生むかは未知数だ。グラント受給者が公の場でSunoを擁護するコメントを出せば、業界からは「買収」と見られるリスクもある。逆に批判条項について公に問題提起するアーティストが現れれば、Sunoの評判にダメージを与える可能性もある。

著作権訴訟の行方次第では、このプログラムの位置づけ——支援なのか防衛戦略なのか——への見方も変わるだろう。


作り手・聴き手への示唆

AIプラットフォームのインキュベータープログラムに応募を検討しているアーティストにとって、Sparkは一つの選択肢だ。ただし規約を最後まで読む必要がある。グラントの規模だけでなく、何に同意しているかを理解した上で判断するのが前提となる。

支援は支援だ。ただし、支援の条件が「批判しないこと」であれば、それは単なる支援ではない——少なくとも、Sunoが批判されているまさにその問題についての批判を封じるという意味では。


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