AI音楽をめぐる著作権訴訟は、これまでSunoやUdioのような音楽生成サービスを主な標的にしてきた。だが今回の訴状が向けられたのは、AIチップの覇者Nvidiaだ。

音楽ライセンス会社Jamendoは6月22日、Nvidiaを米国カリフォルニア北部連邦地裁に提訴した。Nvidiaが「非商用研究目的のみ」に限定されたオープンデータセットを使って商用AIモデルを学習させた、と主張している。


何が起きたか

訴えの中心にあるのは「MTG-Jamendoデータセット」だ。

このデータセットは2019年頃、Jamendoとバルセロナのポンペウ・ファブラ大学音楽技術グループ(MTG)が共同で構築したもの。5万5,000曲超の完全音声トラックにジャンル・楽器・ムードなどのメタデータを付けてGitHubで公開した。ライセンスには「非商用研究・学術利用のみ」と明記されており、商用利用には「Jamendo S.A.の事前書面による許可」が必要とされている。

Jamendoが主張するのは、Nvidiaがこの制限を無視して同データセットを使い、二つの商用AIオーディオモデル——Fugatto(Foundational Generative Audio Transformer Opus 1)とAudio Flamingo——を学習させたというものだ。

訴状の法的根拠は6件に及ぶ。著作権侵害(データセットのコンパイル著作権含む)2件、契約違反2件、不当利得1件、不公正競争1件。

Nvidiaは「Jamendoとの契約関係は存在しない」と述べるにとどまっている。


求める賠償額と並行訴訟

損害賠償として、Jamendoは実損害と逸失利益の合計で少なくとも1,780万ユーロ(約2,030万ドル)を請求。または故意の著作権侵害が認定された場合、作品ごとに最大15万ドルの法定賠償を求める。

米国での提訴に先立って、Jamendoは6月11日にベルギーのゲント企業裁判所にも約1,600万ユーロの商業的請求を提起している。ゲント裁判所はすでに管轄権を認めた。

Winamp GroupのCEOは声明でこう述べた。「AIが音楽産業を変えていくなかで、クリエイターと権利者が適切に認識され、補償され、保護されることが不可欠だと考えている」


なぜこれが重要か

SunoやUdioへの訴訟と今回の訴訟で構造的に異なる点がある。

Suno・Udio訴訟の争点は「音楽生成サービスが学習に楽曲を無断使用したか」だった。今回はAIチップ・インフラの最大手であり、自社では音楽生成サービスを運営していないNvidiaが、AI研究ツールとして公開されたデータを商用モデルの学習に転用したとして提訴されている。

「オープンなデータセット」と「商用利用可能」は同義ではない——という問題は、AI研究コミュニティ全体に波紋を広げる可能性がある。研究目的で公開されたデータセットは、音楽以外にも無数に存在する。その多くが同様の「非商用」制約を持っている。

Jamendoはこれより約1年前、NvidiaとSunoの両社に対して法的措置を予告していた。今回の訴状はNvidiaのみを名指ししており、Sunoとの関係については言及していない。


「研究用」データの商用転用という争点

Nvidiaが主張する「オープンソースデータを使用した」という立場は、技術業界では一般的な慣行と映るかもしれない。しかし「オープンソース」は「利用条件なし」ではない。研究目的で公開されたデータセットには、しばしば「非商用」「帰属表示義務」などの制約が付く。

今回の訴訟が示すのは、学術・研究コミュニティとAI産業の間に生まれた「定義の乖離」だ。研究者が「より広く使ってもらうため」に公開したデータが、巨大企業の商用製品を支える学習素材に流用されている——そのことへの問いを、Jamendoは法廷に持ち込んだ。

判決がどちらに転ぶにせよ、研究用データセットの商用利用を巡るルールが明文化されるきっかけになる可能性は低くない。


今後の展開

ベルギーと米国の並行訴訟が進む形になった。どちらの手続きが先に動くかによって、全体の展開が変わる。

短期的には、Nvidiaが使用したデータセットの実態や、学習プロセスの詳細が法廷で争われることになる。Suno・Udio訴訟でも学習データの開示が大きな焦点となったが、今回の訴訟ではより技術的な「転用の事実認定」が鍵になる。

また、今回の訴訟が認められれば、音楽以外の研究用データセットを学習に使用したAI企業にとっても無視できない前例となる。


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