SunoとBMGがグローバルライセンス契約——レーベルは「訴訟派」と「提携派」に分かれた
AI音楽ツールのSunoがBMGとグローバルライセンス契約を締結した。WMGとの合意から9カ月ぶりとなる大手との提携だが、UMGとSony Musicは依然として訴訟を継続中。業界内での対応の分断が鮮明になっている。
SunoがBMGとグローバルライセンス契約を結んだ。8月12日にBMGが公式発表した合意は、BMGが保有するレコーディングおよび音楽パブリッシングのレパートリー全体を対象とし、過去の学習使用についての清算も含む。
何が起きたか
BMGとSunoは8月12日、BMGのレコーディングとパブリッシングの楽曲を対象としたグローバルな戦略的提携を発表した。この合意は、Sunoが近く公開予定とする「音楽業界と共同開発した初のモデル」の一部として位置づけられている。
Sunoが8月6日に公開した行動原則——生成コンテンツの識別を容易にし、粗製乱造を防ぐためのサーフガード群——がこの提携の土台になったと、BMGは発表文で言及した。
BMGはBertelsmann傘下の独立系レーベルで、独立アーティストのサポートと透明性を重視する姿勢で知られる。今年7月には、無許可のAI生成録音をチャートから除外するための原則を業界各社と共同提案していた。
同時期にSunoはサブスクリプション会員の月間ダウンロード数を制限すると発表。「大量エクスポートを難しくするための措置」とし、EU AI法の透明性要件への対応として音声透かし・フィンガープリント技術の導入も約束している。
なぜこれが重要か
BMGはWarner Music Group(WMG)に続く2社目の大手ライセンサーだが、WMGとの合意から9カ月を要した。この間、Universal Music GroupとSony Music Groupは依然としてSunoへの著作権侵害訴訟を継続している。
注目すべきは、WMGとBMGの両社が次世代モデルの「共同開発者」として名を連ねていることだ。つまりSunoは、一部の権利者と法的な対立を続けながら、別の権利者と次世代モデルを共同で作っているという、二重の状況に置かれている。
提携の経済条件は非公開だ。BMGの発表文には「アーティストとソングライターへの補償」とあるが、具体的な報酬体系や配分モデルは明らかにされていない。Varietyの報道によれば、契約には過去のモデル学習における使用分の清算も含まれるという。
論点・異なる見方
提携の「オプトイン方式」をどう評価するかで見方は分かれる。BMGは「参加するアーティストとソングライターの権利を保護し、補償する」と説明しているが、アーティストが積極的に参加しないと守られないのか、あるいはデフォルトで補償対象になるのかは曖昧だ。
UMGとSonyが訴訟を続けているのは、AIモデルの学習データとしての著作物使用が許諾なき複製にあたるという立場からだ。BMGとWMGはその問いを棚上げにして収益化に動いた——とも解釈できる。過去の学習使用を「清算」という形でまとめて処理することが、業界標準として定着していくかどうかは未知数だ。
一方で、訴訟が長引くほどレーベルが得られる証拠開示の機会が増えるという見方もある。Round Hill MusicがSunoとAnthropicを提訴して以降、訴訟戦略が損害賠償目的だけでなく、学習データの実態解明を狙ったものになっているとも読める。
BMGがかつて業界の中でも「訴訟より対話」を志向する姿勢で知られてきたことを考えると、今回の合意は想定の範囲内とも言える。問題は、これがUMGとSonyの態度を軟化させるかどうかだ。
今後どう展開しそうか
Sunoは次の「業界共同モデル」の詳細を明かしていない。WMGとBMGが参加するとされているが、UMG・Sony抜きのモデルがどこまで業界に受け入れられるかは不透明だ。特に日本ではUMG傘下のアーティストが多く、その楽曲スタイルが学習データに含まれていないモデルが市場でどう評価されるかは見えない。
訴訟の行方もまだ読めない。UMGとSonyは損害賠償とともに、学習データの差し止めを求めている。仮に差し止めが認められれば、Sunoはモデルの根本的な再設計を迫られる可能性がある。
Sunoが$400M以上の資金調達を完了していることを踏まえると、短期的な持久戦には耐えられる。ただし、「業界と共に作る次世代モデル」がリリースされたとき、その品質と権利処理の透明性が市場の評価を決める。
作り手・聴き手への示唆
SunoとBMGの提携が意味するのは、AI音楽の「合法化」ではなく、権利処理の地図が複雑になっていることだ。WMGとBMGの楽曲スタイルはライセンス済み、UMGとSonyの楽曲スタイルは係争中——という状況は、Sunoで何かを作ってリリースしようとする人にとって、正確なリスク評価が難しくなることを意味する。
現時点でSunoのモデルが何を使って学習されているかは公開されていない。次世代の「業界共同モデル」がリリースされたとき、その透明性の中身を確認することが、クリエイターにとっての判断基準になるだろう。
Sources: BMG公式発表(2026年8月12日)、Music Business Worldwide(2026年8月12日)