伝説的プロデューサーのDr. Dreとその長年のビジネスパートナーJimmy Iovineが、8月23日付のニューヨーク・タイムズのインタビューで、AI音楽制作への積極的な姿勢を公言した。

何が起きたか

DreとIovineは、Beats Electronicsの10周年とUSCへの寄付に関連した取材の中で、AIについての率直な見解を語った。

Dreは「数日前、AIに反対している人たちと話し合いをしたんだが、『ドラムマシンが登場したときに反対した人と同じことを言ってるね』と思った。シンセサイザーも同じだ。これは創造性の新しいツールなんだ。新しいことを学ぶのが怖い人がいるだけで」と述べ、AIを既存の楽器・機材と同列に位置づけた。

さらにプロダクションへの実際の活用についても明かした。「自分がやったことに対してAIが何をするか見るためのツールとして使っている」。AIを脅威と感じるかという問いには、「脅威と見ているのは、創造することに問題がある人たちだけだと思う」と言い切った。

Iovineも同調する。「音楽制作においてAIには大賛成だ。デメリットが見えない。"クローゼットAIプロデューサー"はたくさんいる」。Timbalandも活用していると名指しし、「才能のある人がAIを持てば、より良いレコードを作るようになる」と続けた。

なぜこれが重要か

Dr. Dreは現役のプロデューサーとして最高峰に位置する人物だ。Snoop Doggの2024年作『Missionary』を手がけ、2026年のForbesビリオネアリストに初ランクインした。その彼がAIを「すでに使っている」と公言した意味は小さくない。

音楽産業では著名アーティストやプロデューサーによるAI批判が目立ってきた。SZA、Lorde、Jack Antonoff、そして今月にはDaft PunkのThomas Bangalterが「創造プロセスを迂回する手段だ」と批判したばかりだ。その流れの中で、同世代のレジェンドが真逆の立場をとった。

また、IovineがTimbalandの名を出したことも重要だ。「クローゼットAIプロデューサー」という表現は、すでに業界内で相当数のプロフェッショナルがAIを使いながら、それを公言していない現状を示唆する。

論点・異なる見方

Dreの「創造力がある人はAIを恐れない」という言い方には反論もある。AIを批判するアーティストたちが創造力を欠いているわけではなく、著作権・学習データの問題、エネルギー消費、創造の意味そのものへの哲学的な問いから慎重な立場をとっているケースも多い。

Bangalterの批判は感情的なものではなく、「プロンプトを入力することと、より深く本能的な芸術創造プロセスの違い」という認識論的な問いかけだ。DreとIovineの発言はその問いに答えていない——彼らが言っているのは「使えるから使う」であって、「なぜ使うべきか」についての思想ではない。

一方で、ドラムマシンやシンセサイザーを引き合いに出すDreのアナロジーには説得力がある。新しい機材が登場するたびに「人間性が失われる」という批判が繰り返されてきた歴史は確かにある。

Round Hill MusicがSunoとAnthropicを著作権侵害で提訴するなど、法的な係争が続く中で、Dreのような大物がAI活用を公言することは、業界の空気を変えるかもしれない。

今後どう展開しそうか

IovineがTimbalandを名指しし「クローゼットAIプロデューサー」の存在を示唆したことで、今後「実は使っていた」という告白が連鎖する可能性はある。ただし、現在の法的環境の不確かさを考えると、多くのプロデューサーはまだ沈黙を選ぶだろう。

AppleMusicやSpotifyが今年中にAIラベリングを導入する方針を打ち出しているが、DreやIovineのような人物が作った楽曲にもラベルが貼られることになるのか——そのときの反応が一つの試金石になりそうだ。

作り手・聴き手への示唆

プロの世界でAIが「すでに使われている」という事実は、アマチュアや独立系アーティストにとってある種の正当性を与えるかもしれない。「あのDreも使っているなら」という心理的ハードルの低下は現実に起きるだろう。

ただし注意したいのは、DreはAIを「自分がやったことを見るためのツール」と表現している点だ。何かを作った上で、そこにAIをかけている——それは何もないところからAIに楽曲を生成させることとは異なる使い方だ。「使っている」の中身は一様ではない。

音楽の定義より前に、「どう使うか」の文化と倫理が問われ続ける時代が続く。


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