インディペンデント音楽出版社のRound Hill Musicが、AI音楽生成プラットフォームのSunoとAI企業Anthropicをそれぞれ別訴として連邦裁判所に提訴した。提訴は2026年8月17日(現地時間)、カリフォルニア北部地区連邦地裁に行われた。

何が起きたか

Round Hill Musicは、SunoとAnthropicがAIモデルの訓練に際して同社の楽曲を無断でスクレイピングし、著作権を侵害したと主張している。

訴状はそれぞれに500曲の「代表的な侵害事例リスト」を添付。Round Hillが管理する14,364曲の楽曲と16,873件の原盤を対象に、最終的に「1万曲以上」まで対象を拡大する方針だという。

著名な収録曲には、Goo Goo Dollsの「Iris」、Bonnie Tylerが歌いJim Steinmanが作曲した「Total Eclipse of the Heart」、James Brownの「I Got You (I Feel Good)」が含まれ、これら3曲だけで60億回以上ストリーミングされている。

訴因は著作権法上の直接侵害に加え、DMCAに基づくアクセス制御の回避と著作権管理情報の削除。Sunoへの訴状ではさらに、イスラエルのデータスクレイピング企業Bright Data Ltd.とその米国子会社を寄与侵害者として共同被告に加えている。Bright DataはSunoがYouTube Musicなどのライセンスプラットフォームから音楽・歌詞を収集する際に使用したプロキシネットワークと収集ツールを提供したとされている。この事実は、2026年7月にSunoのソースコードがハックされたことで明らかになった。

Anthropicについての訴状には、Claudeに対象楽曲を「現代風にリライトするよう」依頼した際の応答も引用されている。Claudeは自ら「同じ構成、同じフック、軽い言い換えの繰り返し——これはインスパイアされたというレベルを超えて、著作権のある曲を再現することに近い」とコメントしていた。

なぜこれが重要か

この訴訟が注目される最大の理由は、Round Hillが「和解しない」と公言していることだ。

同社のCEO Josh Grussは声明でこう述べている。

「私たちはAIに反対しているのではない。問題は、他者の創造的作業によって構築された数十億ドル規模のビジネスに対して、創作者に何も支払わないという考え方だ。ライセンスはイノベーションの障害ではない——それは原材料の合法的な所有者とその財産を守るために存在する」

代理人のRichard S. Busch弁護士(「Blurred Lines」でMarvin Gaye遺族を代理し勝訴した人物)も「陪審の前で主張する機会を楽しみにしている」と述べており、法廷での決着を明確に目指している。

これまでSunoをめぐる訴訟では、Warner Music Groupが2025年11月に和解・ライセンス契約に転じ、BMGも先週(8月12日)ライセンス契約を締結した。一方でUniversal Music GroupとSony Musicは依然として訴訟中だ。Anthropicは音楽著作権訴訟だけですでに3件(Concord/UMPG/ABKCOによる案件、BMGによる案件、そして今回のRound Hill案件)を抱えることになる。

和解やライセンス交渉ではなく「裁判で白黒つける」という方針を掲げた原告が登場したことは、業界の交渉構造を変える可能性がある。

論点・異なる見方

AI企業側は一般に、訓練データへの楽曲使用は著作権法上のフェアユースに該当すると主張してきた。一方で著作権者側は、同意なき大規模収集は新しい技術的手法による古典的な著作権侵害だと反論する。

SunoとAnthropicはそれぞれ複数の訴訟を並行して抱えており、BMGとSunoの間では既にライセンス契約が成立している。業界の一部には「訴訟は交渉のテーブルにつかせるための手段であり、最終的にはライセンスで落ち着く」という見方もある。

Round Hillが和解を拒否してでも裁判を求める背景には、判例を作ることで業界全体の交渉力を高めようという意図もあるとみられる。2010年設立の同社はUSDで約11億ドル規模のポートフォリオを管理するインディペンデント企業であり、メジャーレーベルのような長期的なライセンス関係維持の必要がなく、姿勢を貫きやすい立場にある。

今後どう展開しそうか

訴状は現在500曲のリストを添付しているが、Round Hillは「1万曲以上」への拡大を予告している。対象曲が増えれば損害賠償額の請求も膨らむ。

SunoはすでにGEMA(ドイツ)との一審で敗訴(7月31日)しており、デンマークのKodaやRIAA主導の集団訴訟など複数の法的圧力が重なる状況にある。Anthropicは今月、Concord/UMPGとの訴訟でDario Amodei CEOへの直接侵害請求の棄却申立てを行うなど、個別に対応を進めている。

フェアユース論の行方はまだ司法に判断されていない。Round Hillが裁判を実際に進めれば、業界全体の法的基準を画する可能性がある——それが最終的に訓練データ使用のライセンス義務化につながるかどうかは、まだわからない。

作り手・聴き手への示唆

Sunoで曲を作っている人、Claudeに歌詞を書かせている人にとって、これらの訴訟は直接の行動制限にはまだつながっていない。ただ、こうした法的圧力の積み重なりが、プラットフォームの訓練データ方針やライセンス構造を変えていく可能性はある。

Round Hillが「Iris」や「Total Eclipse of the Heart」のような普遍的なヒット曲を侵害リストに掲げるのは、単なる損害賠償の計算だけでなく、「どんな曲が対象になるか」を世間に示す意図もあるだろう。AI音楽の訓練に使われているのは無名の楽曲ではなく、文化的な記憶として誰もが知る作品でもある——その事実は、この問題の輪郭をより鮮明にする。


Source: Music Business Worldwide / Variety