Warner Music Group(WMG)のCEO、ロバート・カインクルが8月14日、Semaforのポッドキャスト「Mixed Signals」に出演し、SunoとのAIライセンス契約を明確に擁護した。この発言は、UMGとソニーが引き続きSunoを著作権侵害で訴えているさなかに出たものだ。

何が起きたか

カインクルの立場は約9ヶ月前から一貫している。WMGはSunoとの訴訟を取り下げ、代わりに前向きなライセンス契約を結んだ。契約の詳細は公開されていないが、WMGはSunoの株式も取得したと報じられている。

8月12日にはBMGもSunoとのグローバルライセンス契約を発表し、カインクルは業界内で唯一の「ライセンス派」ではなくなった。

ポッドキャストでカインクルはこう述べた。「ユーザーがトラクションを持つサービスが登場し、そのプラットフォームが合法的な枠組みに移行しようとしているなら、受け入れるべきだ。マーケットリーダーとライセンス体制を構築できる機会がある。殺しにいくよりも、新しい市場をつくれる」

一方でUMGとソニーはRIAAを通じた訴訟を継続中だ。ドイツでは今月初めにGEMAがSunoに勝訴しており、両社はこれを「合法化」とは言えないとする根拠の一つにしている可能性がある。

なぜこれが重要か

メジャー3社の中でWMGだけが和解・ライセンスを選んだこと自体、ひとつの事実だった。そこにBMGが加わったことで、「交渉」の選択肢が孤立した奇策ではなく、現実的な路線として業界内に定着しつつある。

カインクルの言葉の重みはその経歴にある。彼はYouTubeのChief Business Officerとして2010年から2022年まで在籍し、レーベルとの対立関係をライセンス契約へと転換させた当事者だ。「YouTubeにも当時、多くの著作権訴訟があった。それを商業的な関係に変えていった結果、皆のために何十億ドルも稼いだ」と述べた。

AI音楽をUGC(ユーザー生成コンテンツ)の延長として捉え、「guardrailsを厳しくした上でライセンスが正解」という見立ては、YouTube時代の実体験に裏打ちされている。

論点・異なる見方

UMGとソニーが訴訟を続ける理由は単純ではない。Sunoが訓練データとして何を使ったかはまだ法的に決着していない。GEMAが勝訴した事実も、著作権侵害の主張を完全に否定するものではないとの見方もある。

カインクル自身も「guardrailsが厳しくなければならない」と言及しており、ライセンスが「何でもあり」を意味するわけではない。Sunoのダウンロード上限導入、新ライセンスモデルの開発など、具体的な条件の実装が問われる段階に入っている。

カインクルが指摘したもう一つのリスクも見落とせない。「訴訟でSunoを潰しても、ユーザーは訴訟など気にしない。規制が届かない場所のオープンソースモデルに移るだけだ」。これはアーティストにとっても悪いシナリオだ、という論理だ。

今後どう展開しそうか

Sunoは「ライセンス済みの新モデル」を開発中としており、WMGとBMGがその構築に参加する。このモデルがどのような形をとるか——ロイヤリティの算定方法、アーティストへの還元ルール——は未定だ。

UMGとソニーの訴訟は続いており、判決次第では業界全体の枠組みが変わりうる。「訴訟派」が勝てばライセンス交渉の前提条件が強化され、「ライセンス派」が先行すれば交渉ベースが業界標準になっていく可能性がある。どちらに転ぶかはまだわからない。

作り手・聴き手への示唆

SunoがWMGやBMGと結んだ契約の中身は公開されていない。アーティストやソングライターへの具体的な還元がどう設計されるかは、これからが本番だ。

ライセンスが「合法化」を意味するとしても、そのお金が誰にどう届くかという問いは別の話だ。カインクルが「DSPとの交渉こそが本題」と述べたように、AI音楽が拡大することで薄まる可能性があるストリーミング収益の問題は、まだ構造的に解決されていない。


Source: Music Business Worldwide, "Robert Kyncl justifies Suno deal, as UMG and Sony press on with lawsuit" (2026年8月17日)