2033年の録音音楽市場は小売12兆円超——AI音楽はその成長の「内側」にいるのか
調査会社Midia Researchの最新予測では、2033年の世界録音音楽市場は小売で1,211億ドルに達するという。同じ時期、AI生成楽曲はプラットフォームへの流入を急増させている。問うべきは「市場は伸びるか」ではなく、「その数字の中でAI音楽はどう数えられているか」だ。
録音音楽の市場規模は2033年に大幅に拡大するという予測が出た。調査会社Midia Researchは8月14日、2033年の世界録音音楽の小売収益が1,211億ドル(約17兆円)に達するとの試算を発表。2025年実績とされる743億ドルから、7年間で6割以上の成長という見立てだ。
この数字をどう読むか。拡大する市場の「中」にAI生成楽曲はいるのか、それとも「外」にいるのか——その問いが、今の音楽業界の核心にある。
何が起きたか
Midiaの予測によると、2033年の主な内訳は以下のとおり。
- 小売収益:1,211億ドル(2025年比約63%増)
- トレード収益(レーベルへの取り分):627億ドル
- ファン・エコノミー収益(物販・ライブ・ブランド連携含む):185億ドル(2025年の113億ドルから増)
地域別では、インドが2033年にサブスクリプション加入者数で中国・米国に次ぐ3位になると予測されている。ただし収益規模では依然として上位5市場は米国・中国・英国・ドイツ・日本で変わらない。
Music Allyはゴールドマン・サックスの試算(トレード収益2035年に550億ドル)との比較もしているが、いずれの予測も共通しているのはストリーミングを主軸とした成長シナリオだ。
なぜこれが重要か
問題は、この「成長」の数字が何を含み、何を含まないかだ。
2026年7月、DeezerはプラットフォームへのアップロードのうちAI生成コンテンツが50%に達したと発表した。Spotifyは今年8月、AI生成かどうかを示す「AIペルソナ」バッジを導入し、AIアーティストの曲を一般の楽曲と区別する仕組みの整備を始めた。
これらの流れを見ると、プラットフォーム上のAI音楽の占有率と市場成長の試算は、まったく別のロジックで動いている可能性が高い。Midiaの1,211億ドルという数字がストリーミング収益を主な根拠とするなら、AI生成楽曲の再生から発生するロイヤリティも(ライセンスされていれば)その数字に含まれる。一方で、スパムとして除去される楽曲や権利処理されていないコンテンツはカウント外に置かれる。
つまり「市場が成長する」という予測は、AI音楽が音楽市場の外にいることを前提にしているわけではない。
論点・異なる見方
「成長の恩恵を誰が受けるか」という問い。
レーベルやアーティストへのトレード収益627億ドルという数字は、権利処理済みのコンテンツが前提だ。AI生成楽曲の多くがライセンスなしに流通している現状では、成長する市場の恩恵が誰に届くかは自明ではない。Suno・BMGのライセンス合意(2026年8月)、KobaltがSpotifyのAIカバー機能に参加した動き(同8月)は、この「ライセンス済みAI音楽」を市場の内側に引き込もうとする試みとして読める。
成長の質が変わる可能性。
仮にAI生成楽曲がフィラー(背景音楽・作業用BGMなど)として大量消費されるシナリオでは、再生回数は増えても一曲あたりの収益は薄まる。これはSpotifyが懸念してきた「AIスパム」問題の経済的な含意だ。「市場が成長する」と「アーティストの収入が増える」はイコールではない。
日本の位置づけ。
2033年も日本が収益上位5位に残るという予測は、日本市場の根強さを示す一方で、AI音楽普及のペースが他国と異なることも示唆する。JASRACの方針整備、著作権法改正の議論、JOYSOUNDへのAI楽曲配信——日本では独自のルート形成が進んでいる。グローバル市場の成長曲線が日本にそのまま当てはまるとは限らない。
今後どう展開しそうか
Midiaの予測が示す2033年という時間軸は、AI音楽の法的・商業的な整備が相当程度進んでいることを前提にしないと成立しない。現在進行中のSuno・Udio両社に対する著作権訴訟、EU AI法の音声ラベリング義務(2026年8月施行)、各国での著作権法対応——これらの帰結次第で、AI生成楽曲がこの市場成長に「含まれる側」になるか「除外される側」のままかが変わってくる。
成長するパイを誰がどう切り分けるかの争いは、今まさに進行中だ。
作り手・聴き手への示唆
「録音音楽市場が成長する」という予測は、音楽を作ること・聴くことの価値が増している、という前提を内包する。AI音楽もその「価値」の一部として数えられるかどうかは、技術の問題ではなく制度と合意の問題だ。
Midiaの12兆円という数字は楽観的な未来を描いているように見える。だがその楽観の中身を問うと、AI生成楽曲の扱いという未解決の問いが浮かんでくる。成長の恩恵が届く先として、自分はその数字の内側にいるのか——そこから考え始めることが、今の時代の音楽との向き合い方かもしれない。