SunoがブラウザベースのDAW「Suno Studio 2.0」を発表した。MIDI編集、プラグインをチャットで生成する機能、高精度ステム分離、オートメーション——いずれも従来型DAW(Pro Tools、Ableton Liveなど)では当然とされてきた機能だ。AI音楽生成プラットフォームがこれらを一気に実装することで、Sunoは自らの立ち位置を「AI生成器」から「音楽制作の場」へと塗り替えようとしている。

何が起きたか

Suno Studio 1.0は2025年9月にリリースされた(2025年6月に買収したブラウザDAWスタートアップWavToolの技術を土台にしている)。それから約1年を経てのメジャーアップデートが今回のStudio 2.0だ。

新機能の主なものは以下のとおり。

  • MIDI:タイムライン上でのインポート・録音・編集が可能になった。新搭載のウェーブテーブルシンセと合わせ、MIDIクリップをそのままAI音声生成のプロンプトとして使う機能も持つ。MIDIコントローラーがなくてもPCのキーボードで音符入力ができる。
  • チャットバー(ベータ):スタジオ内で自然言語チャットができる。「ファンキーなスプーン奏者でクラーベを演奏して」のように指示して音源を生成させたり、独自プラグインの設計を依頼することもできる。プラグイン作成はリリース時点ではクレジット消費なしとされているが、将来的な変更を示唆している。
  • 高精度ステム分離:既存の楽曲からステムを抽出し、Suno外部からインポートしたオーディオも同様に処理できる。32ビット/48kHz品質でのマルチトラック書き出しはPremierサブスクライバーのみ制限なし。
  • オートメーション:トラックやプラグインのパラメーターを時間軸に沿って変化させるオートメーションカーブを描画できる。
  • ダウンロード無制限:Studio利用時はサブスクライバーに限り書き出し制限を撤廃(無料プランには別途制限が維持される)。

Sunoはブログで「ギター、ドラムマシン、シンセ、エフェクト、ステップシーケンサーといったAI以前の音楽テクノロジーの長い系譜に、Suno Studioは連なるものだ」と述べており、伝統的な音楽制作との連続性を強調した。

なぜ重要か

Sunoのここ2週間は怒涛の発表続きだった。GEMAとの訴訟敗訴、Responsible AIプリンシプルの公表、MixmatchとのSentinel提携、ビニール盤対応、モバイル「Voices」機能、ダウンロード上限の設定、BMGとのライセンス合意——これらを経てのStudio 2.0発表は単なる機能追加ではなく、企業としての方向性の表明に近い。

「テキストを入力すれば音楽が出てくる」というUI設計は、Sunoが多くのユーザーに最初に見せてきた顔だ。しかしMIDI編集、オートメーション、プラグイン設計をブラウザで完結させようとするStudio 2.0は、その手前にいるライトユーザーではなく、音楽制作の経験を持つ層に向いている。Sunoのブログが「DAWを初めて開く人にも、スタジオに20年いるアーティストにも」と書くのは戦略的な表現だが、実際に搭載された機能群は明らかに後者を意識している。

論点と異なる見方

「DAWに見せたい」のか、「DAWになりたい」のか。
The Vergeは今回のアップデートを「Sunoは本物の音楽制作ツールのように見せようとしている」と評した。「見せようとしている」という留保には、既存のプロダクションコミュニティがAI生成を主軸に置いたツールをどこまで受け入れるか、という懐疑がにじんでいる。Sunoが「系譜」を強調するほど、その系譜に連なる既存のミュージシャンからの視線は厳しくなりうる。

著作権訴訟との同時進行。
UMGおよびSony Music GroupとのAI著作権侵害訴訟はまだ決着していない。Studio 2.0がどれだけ洗練されても、基盤となるモデルの学習データをめぐる問題は並走している。プラットフォームの機能が高度化するほど、その上に構築される作品の権利帰属を問う声も強くなる可能性がある。

サブスクライバー限定の実情。
ステム書き出し制限の撤廃はPremierプラン契約者に限定されており、無料プランユーザーには恩恵が少ない。AI音楽ツールが「誰でも音楽を作れる」を謳いながら、高品質な制作環境をサブスクの壁の向こうに置く構造は、DAWの歴史が繰り返してきた課題でもある。

今後の展開

Studio 2.0の完成度が問われるのはこれからだ。チャットバーは「ベータ」表記のまま、プラグインのクレジット体系も流動的とされている。MIDIとオートメーションが実際のプロデューサーのワークフローに耐えるかどうか、実使用からのフィードバックが蓄積されるまで評価は保留になるだろう。

一方、Sunoがここ数週間で打ち出した「業界との協調(ライセンス・Musixmatch連携)」と「ツールとしての成熟(Studio 2.0)」という二本柱は、IPO観測が絶えない同社が中長期で目指すポジションを示唆している。AI音楽生成のコモディティ化が進む中、制作環境そのものを提供する垂直統合のプラットフォームになることが次の競争軸と見るなら、Studio 2.0はその第一歩として読める。

作り手・聴き手への示唆

AI音楽ツールを「生成器」として使ってきた人にとっては、Sunoがより複雑な操作を要求する方向に進むことへの戸惑いもあるかもしれない。ただ、MIDI入力やステム分離を組み合わせることで、「AIが生成したものを素材に使う」という制作スタイルが現実的な選択肢として浮上してきた。

これはGarageBandの登場が「誰でも作れる」を実現したように、AI時代の制作ハードルの変化として捉えることができる。ただしその問いはシンプルではない——ツールの敷居が下がるとき、何が残り、何が失われるかは、使う側が自分で判断していくことになる。


ソース: Suno公式ブログ / Music Ally