Spotifyが準備を進めているAI活用のファンカバー・リミックス機能に向けて、独立系パブリッシャー大手のKobaltが新たなライセンス契約を締結した。Music Allyが8月14日に報じた。

何が起きたか

SpotifyはこれまでにUniversal Music Group(UMGおよび出版部門UMPG)、インディーレーベルの許諾を一括管理するMerlinとライセンス合意を結んできた。今回のKobaltはそこに加わる形だ。

重要なのはKobaltがレーベル(録音権)ではなくパブリッシャー(出版権)だという点だ。AI生成のカバーやリミックスを合法的に提供するには、録音権と出版権の両方を押さえる必要がある。UMGとの契約にはUMPGが含まれていたが、他レーベルの楽曲に対する出版権をKobaltが持っている場合、今回の合意なしには機能を使えない楽曲が多数存在していた。

Kobaltはみずから「米英のトップ100曲のうち平均35%以上の出版権を保有している」と述べている。この規模の出版社が加わることで、実際に機能の対象となれる楽曲の幅は大きく広がる。

なぜこれが重要か

AI音楽のライセンス議論はこれまで録音権、つまりレーベルとの交渉が主役だった。しかし、ユーザーが既存アーティストの楽曲をAIでカバーしたりリミックスしたりする場合、楽曲の出版権(作詞・作曲に関わる権利)を持つパブリッシャーの許可も不可欠になる。

Kobaltはすでにこの領域で積極的だ。UdioやElevenLabsとも先行して契約を結んでおり、ElevenLabsとの合意では録音ロイヤリティと出版ロイヤリティの同等化(50対50)を条件に盛り込んでいた。ストリーミングで慣例的に録音側が多く取る配分への問題提起として、ひとつの基準点を示していた。

Spotifyに対しても同様の条件交渉が行われたかどうかは非公開だが、Kobaltがどんな条件で合意に至ったかは業界内で注目されているはずだ。

論点・異なる見方

Kobaltが抱える実際の課題は「ソングライターをオプトインさせること」だ。契約はあくまで枠組みで、個々のライターの楽曲が機能に使えるかどうかはライター本人の同意次第になる。

Kobalt CEOのLaurent Hubertは今年1月のMusic Ally Connectカンファレンスで、ソングライターたちは「概してオプトインに傾いているが、条件付きが多い」と述べた。一方で「AIを純粋に自分の創作へのおびやかしと見ている人にとっては複雑な会話になる。説得に失敗するケースもある」とも話している。

パブリッシャーが契約を結んでも、配下のクリエイターが全員同意するわけではない。Spotifyの機能に使えるレパートリーがどの程度の広さになるかは、このオプトインの進捗に左右される。

SunoやUdioも独自に類似のカバー・リミックス機能に向けた許諾モデルを準備しているとされており、プラットフォーム間で「誰の楽曲を使えるか」の競争が始まる可能性もある。

今後どう展開しそうか

Spotifyのファンカバー・リミックス機能がいつ正式にリリースされるかはまだ発表されていない。ただし録音側(UMG、Merlin)と出版側(UMPG、Kobalt)の主要プレーヤーが揃ってきたことで、機能のローンチに向けた基盤はかなり整ってきたと見ることができる。

課題として残るのは、ソニーやワーナーといった他大手レーベルの動向、そして出版側でいえばBMG MusicPublishing(レーベルのBMGとは別)やSony Music Publishingなどがどう動くかだ。

著作権の観点では、AIを使ったカバーを「二次創作」として扱う場合の法的整理が各国で異なるため、地域ごとの対応も複雑になるとみられる。

作り手・聴き手への示唆

ファンにとっては、自分が好きなアーティストの楽曲を合法的にAIでカバーしたり、新たなリミックスを生み出したりする可能性が近づいている。ただし、実際に機能を使える楽曲がどれだけ揃うかは、アーティストやライターの個別の判断にかかっている。

楽曲制作をしている立場からすると、自分の作った曲がAIカバーの素材として使われることへの是非は、ひとりひとりが問われる選択だ。オプトインかどうかを決めるにあたって、Kobalt CEOが言うように「条件をどう設定するか」を考える余地があるというのは、完全な拒否か完全な許可かという二択でないことを意味する。その交渉がどこまで実質的なものになるかは、実際に機能が動き始めてみないとわからない。


ソース: