AI業界最大規模の著作権訴訟の一つが、新たな局面を迎えた。

8月3日、AnthropicとCEOのDario Amodeiは、カリフォルニア北部連邦地裁(Eumi K. Lee判事)に、それぞれ別々の一部棄却申立を提出した。対象は音楽出版社3社(Concord Music Group、Universal Music Publishing Group、ABKCO)が2026年1月に提起した「Concord II」——同社を2万以上の楽曲の著作権侵害で訴え、30億ドル超の損害賠償を求める訴訟だ。

何が起きたか

Anthropicと、CEOのDario Amodeiは、それぞれ別の動機で棄却を申立てた。

Anthropicの申立:アウトプット侵害とDMCA請求の棄却。 Anthropicが求めたのは主に2点だ。

まず「アウトプット侵害」請求——Claude(Anthropicの生成AIモデル)がユーザーのプロンプトに応じて著作権歌詞を出力するという訴え。Anthropicは「第二次修正訴状(SAC)は侵害されたアウトプットの例を一つも示していない」として棄却を求めた。これは「証拠なしの主張には答える必要がない」という正面突破の論理だ。

次にDMCA請求——著作権管理情報(CMI)をトレーニングデータから削除したという訴え。Anthropicは「DMACAのCMI規定は、著作権作品の全体から削除した場合にのみ適用される。出版社が所有するのは歌詞ではなく楽曲(ミュージカル・コンポジション)であり、訴状はAnthropicがその楽曲を保有していたとは述べていない」と論じた。

Amodeiの申立:個人名指しの直接侵害からの離脱。 出版社の訴状にはAmodei個人に対する請求が含まれており、「Direct Copyright Infringement by Torrenting(トレントによる直接著作権侵害)」と題されている。Amodeiの弁護団は「SACの約200パラグラフは他者による侵害を述べているが、Amodei本人が出版社の作品を複製したという具体的な事実の記載はない」として棄却を求めた。

一方、Anthropicはトレント経由の歌詞入手やトレーニング目的の複製という訴えについては、棄却の申立を行っていない。これらは争われる見通しだ。

なぜこれが重要か

AI音楽・AI著作権の議論は、Suno/Udio対レーベルの構図に集中しがちだが、Anthropicの訴訟はより大きな射程を持つ。

今回の申立でAnthropicが切り出した論点——「アウトプット侵害を訴えるなら具体的な侵害例を示せ」「DMACAのCMI規定は完全な著作物にしか適用されない」——は、いずれも他のAI企業が将来の訴訟で流用できる法的フレームだ。ここで棄却が認められれば、AI全般に有利な先例になりうる。

逆に認められなければ、出版社は「AIモデルのアウトプット=侵害の証拠なし」という立証責任の基準を下げた状態で進めることができる。

Amodei個人の申立もシンボリックな意味を持つ。AI企業のCEOが個人として著作権訴訟に名指しされるケースはまだ珍しく、他社の経営者にとっても注目せざるを得ない事例だ。

背景:ConcordシリーズとAnthropicの訴訟地図

Anthropicをめぐる出版社の訴訟は2本ある。

Concord I(2023年10月提起)は499作品が対象で、現在は出版社側が部分的な略式判決を求めている段階だ。2025年1月にはClaudeの歌詞出力を防ぐ「ガードレール」設置の合意が裁判所に承認されている。

Concord II(2026年1月提起)は2万以上の作品・30億ドル超が対象で、Claudeのトレーニングデータとして海賊版ライブラリからのトレントが使われた疑惑が軸となる。この疑惑はもともと書籍著者による別の訴訟で浮上したものだ。

なお2026年8月2日からEU AI法のコンテンツラベリング義務が施行されており、大手AI企業の著作権対応に対する規制・司法両面のプレッシャーが高まっている。

論点・異なる見方

Anthropicの「例示がない」という主張は戦術的に理解できるが、出版社はそれを「例示を追加した訴状修正で対応できる」と受け取るかもしれない。棄却が認められたとしても、ゲームオーバーではなく差戻し修正の可能性がある。

DMACAのCMI論点は技術的に興味深いが、判事がどの程度「歌詞はコンポジションの一部」という解釈に乗るかは未知数だ。音楽著作権では歌詞と楽曲は別の権利として扱われることが多く、裁判所の判断は慎重な解釈を要する。

Amodei個人の申立については、「200パラグラフ中に個人の行為立証がない」という論理は一見強いが、出版社はこれを「訴状修正の機会があった場合に加筆できる」と受け取る余地もある。

今後どう展開しそうか

11月4日に審理が予定されており、Lee判事が棄却申立をどう扱うかによって今後の方向性が変わる。

Anthropicに有利な判断が出た場合:アウトプット侵害やCMI請求は狭められ、訴訟はトレーニングデータの扱い(フェアユース)に絞られていく。

出版社に有利な判断が出た場合:AnthropicはConcord Iと並行してより広い戦線で戦うことになり、和解交渉の圧力が高まる可能性がある。

米国での本格的なフェアユース判断は2027年以降の見通し(連邦地裁の審理スケジュール上、実体的な判断は2027年4月以降)。欧州ではGEMA v. Suno判決(7月31日)がすでに出ており、方向感の違いが見えはじめている。

作り手・聴き手への示唆

「ClaudeはAI音楽に関係ない」と思うかもしれないが、この訴訟の行方はAIモデル全般の著作権リスクに直結する。Suno・UdioのモデルはClaudeとは異なるが、「トレーニングデータとして歌詞・楽曲をどう扱ったか」という問いは共通だ。

AI音楽を作っているクリエイターにとって、使っているツールの法的地盤がどれだけ固まっているかは長期的なリスク管理の問題でもある。Concord IIの展開は、その地盤の強度を測るひとつの指標になる。


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