ラッパーのTygaが、新アルバム『$tarface』の制作にAIを使用したことをVIBEのインタビューで認めた。これを受けてBillboardとRolling Stoneが報じている。

何が起きたか

Tyga(本名:Micheal Ray Nguyen-Stevenson)は8月上旬に公開されたVIBEインタビューで、80年代インスパイアのオルターエゴプロジェクト『$tarface』にAIツールを使ったことを認めた。ただし使用範囲は限定的で、「80年代のシンセサウンドが必要な箇所」や「すぐにギターソロが欲しかった部分」に対してAI音楽ツールを活用したと説明している。ボーカルと作詞はすべて自分自身によるものだと明言した。

「マジシャンが手品のタネを明かすようなものだと思ってたから、ずっと話してこなかった。でも実際にAIをツールとして使った」とTygaは述べた。「技術がどこへ向かっているかを考えると、これはAuto-Tuneが出てきたときと同じだ」

なお、BillboardはTygaが「Sunoを使った」とは発言していないことを後から訂正している。彼が使ったのは特定のサービスを指定していないAI音楽生成ツールとしか伝えられていない。

なぜこれが重要か

AIを使ったことで騒動になったFenix Flexinの「Rubberz」(Rezonate既報)と同時期に、Tygaは別ルートで同じ80年代的サウンドを作っていたことが明らかになった。Flexinが疑惑を否定し続けたのに対し、Tygaは逆に開示を選んだ。この対比が、AI使用への「態度」としての二つのモデルを浮かび上がらせている。

「15年間ヒット曲を作ってきたあとで、何を言われても気にならない」とTygaは言い切っている。メインストリームの実績を持つアーティストが、AIをツールとして使うことを堂々と打ち明けたケースとして、業界内での注目度は高い。

論点・異なる見方

Tygaが引き合いに出したAuto-Tuneの比較は、この議論を考えるうえでよく出てくるフレームだ。実際、Auto-Tuneは登場時に「本物の歌唱ではない」と批判されたが、現在は一般的な表現ツールとして定着している。

一方、批判的な立場から見れば、Auto-Tuneはあくまで「人間の声を処理する」ものであり、AIが「なかったはずのギターソロを生成する」のとは性格が異なるという反論がありえる。サンプリングやプラグインとの線引きをどこに引くかは、曖昧なままだ。

また、「書いたのは自分」「歌ったのは自分」という点を強調する一方で、制作の核心的な音の質感がAI由来であることを、聴き手はどう受け取るのかという問いも残る。Tygaが「好きなら好き、嫌いなら嫌い、それだけだ」と言い放つのは自信の表れでもあるが、開示を義務とは考えていない姿勢でもある。

今後どう展開しそうか

Fenix FlexinとTygaの二つの事例が同時期に重なったことで、ヒップホップシーンにおけるAI使用の議論は加速しそうだ。Tygaが「ツールとして使う」姿勢を公言したことで、他のアーティストが同様の判断をしやすくなる可能性がある。一方で、「どこまで使ったら"AI制作"と呼ぶのか」という定義の問題は、業界・ファン双方にとってますます曖昧になっていく。

作り手・聴き手への示唆

Tygaの言葉で興味深いのは「なぜ良い物の作り方をわざわざ説明するのか」という部分だ。これは、AIを隠すことへの批判でも開示への推奨でもなく、「音楽の良し悪しとプロセスの透明性は別の話だ」という立場を示している。

ツールの使用開示を義務とする声は業界内でも高まっているが、Tygaの発言は「義務でなければ明かさなかった」という側面も持つ。聴き手にとって、AIが使われているかどうかを知ることは、その音楽の体験を変えるのか——そこへの答えは人によって異なる。


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